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 だったらもっと認知症の方を取り巻く環境を、適切な形にデザインできないか。周囲の人が本人が難しくなったことを代わりに何でもやってしまうのではなく、その人が自力でやりやすい環境、暮らしやすい環境を整えてあげることはできないかと。

高齢者や認知症の方ほど、最新デバイスを

――スマホを使って困りごとを解決する案も、納得でした。

 文字が書けなくなっても音声入力ができますし、財布や鍵などに忘れ物防止の「スマートタグ」をつけておけば置き忘れや紛失を防げますから。

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 あの、iPhoneのアラームって名前を変えられることご存じですか?

――アラームって目覚まし時計のことですよね?

 そうそう。目覚まし時計として使っている方が多いと思うのですが、「アラーム」と表示されているところを変えることができるんですよ。これも丹野さんからお聞きしたのですが、彼は名前を「アラーム1」ではなく「薬を飲む時間」などと変えて、毎日繰り返しの設定をしておくことで、薬の飲み忘れを防いでいるそうなんです。

 生活の環境を整えることで薬を飲むようにさせるというのは、ある意味デザインのアプローチなんですよ。なぜ本人が薬を飲むという行為を想起できないのか、想起すべきタイミングに想起できる情報を提示してあげる方法を考えれば、解決するんですよね。高齢者や認知症の方ほど、最新デバイスを積極的に使ったほうがいいんです。

 

認知症があっても暮らしやすい社会に

――認知症の方がどういう困難を抱えているのかを理解できると、社会のデザインもまた変わりそうですね。

 生活の中でのラベルやサイン、目印のつけ方、生活動線、家電の使い方など、混乱を生むモノ・コトを取り除き、環境面からアプローチできることはたくさんあると思います。実は企業にも結構アプローチしたんですよ。でも、何の反応もなくて(苦笑)。

 多くの企業にとって、認知症のある方は現時点ではある意味「顧客ではない」んですよ。困っていることは想像できても、例えば紛争地域の難民支援をするのと同じように、目の前のビジネスとは遠い“別世界”での出来事になってしまっている。だったら認知症の方を支援するよりも、「アフリカの子供たちのために~」とか「地球環境のために木を植えています」みたいな活動の方が企業の社会貢献活動としては、わかりやすいんでしょうね。

 でも認知症は、友人、家族、自分も含めて、誰もがなる可能性があるものです。これから認知症のある方がますます増えていくのは確実ですから、企業にとっては大きなビジネス機会になりうるものですし、認知症があっても暮らしやすい社会にしていくことは決して他人事ではなく、誰もが自分のために必要なことなんだと思います。

(田幸和歌子)