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金正恩がレクサスに乗って…対日感情が敵対的でないワケ

 2018年、平昌冬季オリンピックの際にオリーブの枝をくわえた赤い鳩を韓国へ飛ばした金正恩委員長は、ドナルド・トランプ大統領と初の朝米首脳会談を行った。しかし、北朝鮮の非核化をめぐる意見の相違で、翌年2月のハノイ会談の決裂という苦汁をなめた。対北朝鮮制裁は解決の兆しがなく、ジョー・バイデン米政府との対話の準備はほど遠い状態だ。

 金正恩委員長と北朝鮮労働党の戦略家たちは当然、この時点で日本列島へ目を向けるようになるだろう。対北朝鮮制裁や新型コロナ、経済難など、北朝鮮が直面する数々の困難は直ちに体制危機へとつながるはずだから、これを突破する妙案を必ず探さなければならないからだ。

 金委員長は2020年8月、水害に遭った黄海北道(ファンヘプクト)の農村に、レクサスLX570SUV(スポーツユーティリティー車)で現れた。筆者は、「日本帝国主義打倒」と反日を体制の柱のように考える北朝鮮で、金委員長がレクサスを直接運転して登場したというのは意味深長と見ている。金委員長の対日認識は、金日成主席や金正日総書記に比べてあまり敵対的でないという解釈が可能だからだ。

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金正恩氏、近年にない評価  北朝鮮・三池淵市で現地指導する金正恩朝鮮労働党総書記。11月に配信された(朝鮮中央通信=共同)

 これはおそらく、生母の高容姫(コ・ヨンヒ)が大阪で生まれ、北朝鮮の送還船に乗った在日朝鮮人だという点に起因すると分析される。窮乏した北朝鮮での生活の中で、日本から持ち帰った電子製品や生活必需品を使い、良いイメージを持った母親の影響を金正恩氏も受けた可能性があるということだ。

日本に友好的でも“スパイ活動”はなくならない

 日本に対して相対的に友好的な感情や認識を持っているなら、金委員長が日本との関係改善や接近に乗り出す可能性は高まる。心理的拒否感がない状態であれば、最高指導者である自分の決断だけでも、日朝関係が急激な大転換を迎えることもありえるわけだ。

 むろん、金委員長のこのような感情や対日観が、日本内の北朝鮮工作活動を萎縮させ中断させる可能性は高くない。日本との対話や交流、関係改善を推進しようと構想、もしくは決心したのなら、東京の工作員たちからもっと多くの情報や資料を送らってもらわなければならないということを金正恩氏自らがよく知っているはずだからだ。

 国際社会の対北朝鮮制裁の状況の下、外貨稼ぎが切迫している北朝鮮が、日本を資金調達の舞台にしたという点で、日本政府は対策づくりを急ぐべきだろう。今後、さらに知能的かつ執拗な北朝鮮による工作が日本国内で波状的に起こる可能性が高いからだ。

映画『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』予告編より

 金正恩委員長は、もしかしたら「北朝鮮版黒金星」を日本へ送り込もうと考えているのかもしれない。

(翻訳/金敬哲)