園内の獣医が診察すると、歯ぐきの奥の方にうみがたまっていた。なかなか治らないので同園の動物病院に入院し、切開してうみを出す外科手術を行った。縫合した糸を抜くまで時間がかかっているうちに、今度は皮膚病になった。また入院治療が必要になった。
展示再開後は走ると転ぶような状態だった
動物はエサが食べられないと命に関わる。
今春担当になった水上恭男さん(55)は「一時はかなり残していました。口が痛いし、体力も弱っていたのでしょう。7kgあった体重は6kgに落ちてしまいました」と話す。そのまま食べられなければ衰弱しかねない。水上さんは心配した。ところが、退院させてレッサーパンダ舎に連れて戻ると、エサを完食するようになった。
「これはイケルぞ。風太には生命力がある」。水上さんは確信した。
ただし、体力の衰えが著しく、よたよたとしか歩けなかった。
「あまり動こうとしませんでした。無理にでも動かないと寝たきりになってしまうことがあります。そこで風太がゆっくり歩いている時には、私が後ろを付いて歩きました。風太が応えて歩いてくれるような気がしたからです。少し良くなると、私が小走りしました。すると風太も一緒に走ります。そうして少しずつ体力を取り戻していきました。それでも展示再開から1~2カ月は走ると転ぶような状態でした」と、水上さんは話す。
今は普通に走れるようになったものの、動きは一段と緩慢になった。サッサと歩いていたのが、ペタペタとしか歩けなくなったのだ。放飼場の高所にある小屋にも上らなくなった。
「風太はレッサーパンダの中でも少し変わっている」
今、風太は放飼場のお気に入りのコースを行ったり来たりして散歩するのが日課だ。疲れると丸まって寝る。自由に出入りできる寝室で眠ることもあり、「昼寝は他のレッサーパンダより1~2時間長いでしょうか。やっぱりお歳ですから」と水上さんは言う。
国内で飼育されているレッサーパンダの最高齢は多摩動物公園のファンファン(メス)、22歳だ。「近年は20歳ぐらいまで生きる個体もいる」(日本動物園水族館協会)とはいうものの、18歳の風太は長老に近い。2021年12月20日時点で高齢な方から10番目だ。
「もちろん国内最年長を目指して、風太と一緒に頑張っていきたいと思います」と水上さんは語る。それにはいくつかのポイントがある。
レッサーパンダはヒマラヤに近い標高1500~4000mの高冷地が生息域であることから、毛がふさふさしていて寒さに強い。しかし、暑さには弱く、近年の日本の猛暑には気をつけてやらなければならない。
これ以外にも風太特有の気配りが必要になる。
「風太はレッサーパンダの中でも少し変わっている」。千葉さん、濱田さん、水上さんの歴代飼育員は声をそろえる。例えば、本来は強いはずの寒さに弱い。「寒いと丸まって寝ていることもあります」と水上さんは話す。このため他の個体と違って、寒さにも気をつける必要がある。