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「最初に担当になった時、風太は落ち着きのないやつだなと思いました。とにかく動き回る。好奇心が旺盛で、いろんなものを見たがりました。放飼場の外には大勢の人がいます。何だろうとあっちで立ち上がって外を見る。こっちに来てまた立ち上がる。

 当時の放飼場は、今のように高所に小屋を設けていなかったので、外を見ようとすれば、立つしかありませんでした。頻繁に立って、しかもその時間が長いから、来園者は喜んで押しかけます。人に動じない風太はさらに興味を持ち、立ち姿で外を見ようとしました。そうした相乗効果で人気が出ていったのかもしれません」

わざわざ低木を乗り越えて歩く風太。若い頃はぴょんと飛び越えたのだろうが、うんしょ、うんしょと時間を掛けて登る

 風太ブームのおかげで、千葉市動物公園の入園者数は05年度、9年ぶりに80万人を超えた。06年には約88万人を記録した。

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レッサーパンダは絶滅危惧種

 一躍スターになった風太だが、立ち姿以外にも画期的なレッサーパンダだった。

 千葉市動物公園に初めて赤ちゃんをもたらしたのである。

 1985年に開園した同園では、当初からレッサーパンダを飼ってきた。しかし、なかなか繁殖には結びつかなかった。

 レッサーパンダはヒマラヤに近いインド、中国、ネパール、ブータン、ミャンマーの高地で暮らす。生息地や外見の特徴からシセンレッサーパンダとネパールレッサーパンダに分けられ、日本の動物園で飼育されているのは主にシセンレッサーパンダだ。日本動物園水族館協会によると、国内のシセンレッサーパンダの飼育頭数は2021年7月31日時点で264頭。世界では17年末時点で349頭といい、日本が最大の飼育国になっている。

静岡から千葉に来た頃の風太(千葉市動物公園発行のどうぶつこうえんニュース)

 野生では2500~1万頭しかいないとされる絶滅危惧種だ。こうした動物は自然界での保護の一方、動物園が「種の保存の場」と位置づけられており、近親交配にならないよう各園が個体を貸し借りして繁殖に力を入れている。園間の貸し借りのことをブリーディング・ローンという。

 静岡生まれの風太が千葉へ来たのはそのためだった。

結婚相手としてやってきたチィチィ

 当時、千葉市動物公園には推定20歳というメスのレッサーパンダがいた。極めて高齢だったので、繁殖能力があるかどうか分からなかったが、それでも静岡市立日本平動物園が風太を婿に出したのは、このメスが中国生まれだったからだ。もし子が生まれたら、遺伝的な多様性を残すことができる。

 だが、高齢のメスは体が衰えて園内の動物病院に入院し、死んでしまった。婿に来たのに婿入りできず、独身のまま過ごしていた風太には、結婚相手として新たなメスが来園した。

 長野市茶臼山動物園のチィチィだ。風太より半月ほど前に生まれた同い年。千葉には風太に遅れること約1年で移って来た。

園内で売られていたレッサーパンダのチョコレート菓子

 結婚相手はどのようにして選ばれているのか。日本では静岡市立日本平動物園が核になって、全個体の血統登録をしており、ソフトで各個体に受け継がれた遺伝特性を分析し、偏らないようにペアリング相手を選んでいる。当時はまだこの分析ソフトは導入されていなかったが、風太とチィチィはそれぞれ先祖をたどり、分析したうえでお見合いさせた。

「ただ、オスとメスには相性があります」と濱田さんが指摘する。こうした相性はソフトでは分からない。しかも、ぱっと見ても仲が良さそうには見えないのだそうだ。