近年、『NHK紅白歌合戦』を見ていて、気になることがある。歌手の後ろで出場者や著名人がダンサーを務めたり、盛り上げたりする機会が激増しているのではないか。しかも、その比率は演歌勢に多く、最後の出場年に顕著に見られる。これは単なる思い込みなのか、それとも……。“紅白バックアップ問題”を調査した。
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「今まで歌ってくれた歌、1曲も知らないです」
2004年、紅白の序盤が終わり、マイクを向けられた審査員の橋田壽賀子が不意に口にした。直後に「いかに時代遅れか」と付け加え、当時79歳の橋田は自らの流行の疎さを嘆いた。
しかし、それまでに歌われた17曲のうち、オリコン年間ランキングの50位以内に入った曲は河口恭吾『桜』(9位)、EXILE『Carry On』(35位)、nobodyknows+『ココロオドル』(37位)の3曲だけ。悪意がないからこそ、橋田の言葉は芯を食っていた。
橋田の衝撃発言が飛び出した2004年、紅白の世帯視聴率は39.3%(2部/ビデオリサーチ調べ/関東地区。以下同)と初めて40%台を割り、3年前の48.5%から約10ポイントも急落した。
この頃から、音楽界を取り巻く環境は激変。CDが年々売れなくなり、近年は配信が主流を占め、以前にも増して好みの曲の世代間ギャップが広がった。
“バックアップ体制”を敷かれ始めるのは「別れの黄色信号」なのか?
『紅白歌合戦』の出場者も大きく変わった。演歌の比率は2000年には56組中31組で55.4%と半数以上もあった。しかし、2004年には56組中20組で35.7%、2020年には41組中8組で19.5%まで落ち込んだ。
この間、北島三郎、五木ひろし、森進一、細川たかし、美川憲一、小林幸子、川中美幸などのベテランが紅白の舞台から去った。放送前に勇退を示した歌手もいれば、発表で初めて落選を知られたケースもある。
彼らの紅白を振り返って気づいたことがある。後ろに他の出場者やタレントなどが映る“バックアップ体制”を敷かれ始めると、「別れの黄色信号」が灯るようなのだ。
まず、2010年前後を最後に選出されなくなった演歌勢を見てみよう。2006年に紅組のトリを飾った川中美幸は翌年、全体で4番目の歌唱と出番が早くなり、後ろで北島三郎、和田アキ子、小林幸子、石川さゆり、倖田來未、コブクロなどが手拍子をしていた。2011年、『二輪草』を歌う最中にはAKB48の前田敦子、大島優子、篠田麻里子、柏木由紀、小嶋陽菜の5人と『パパイヤ鈴木とおやじダンサーズ』がペアでダンスを踊った。
これ以降、川中は紅白に出場していない。