――宇垣さんが取り上げていた中で、ほかに気になる漫画はありますか?
よしなが バレエ漫画の『ダンス・ダンス・ダンスール』(ジョージ朝倉)とか美大を目指す『ブルーピリオド』(山口つばさ)は「才能」の話ですよね。人格からは遠い地平で評価される世界。もちろんずっと続ければその人の人生の佇まいが踊りや絵に表れてくるとは思うのですが、才能の面で最初にどうしようもない足切りがある。そういう世界はすごいなといつも思います。
表現する側の「切なさ」に惹かれる
宇垣 私は作る側ではないのでちょっと仰ぎ見るように読んでしまうのですが、よしながさんのように作る側にいる方はどう感じるのですか?
よしなが 表現する側ということですよね……だから読んでいて切ないのかなあ。デビュー前に2次創作の同人誌を作っていた時のことで言うと、好きな漫画は同じでも、「漫画を描く才能があるかどうか」ということが、その人と付き合う時の大きな基軸になっていて。その残酷さを目の当たりにすると胸が詰まる感じはしました。誰も悪くないけれど切ないことが起こってしまう。でも私はその切なさに惹かれるんだなとも思うんですよね。だから漫画にも描きますし。
宇垣 『きのう何食べた?』でも誰が悪いとは言えないけれど切ない、ということが起こりますよね。シロさんとご両親とのやりとりを読んでいると、そういう気持ちになることがあります。
――シロさんの両親は息子がゲイであることを完全に受け入れることができていません。
よしなが 学校の先生をしている方が、生徒にはそんなことを思わないのに自分の子供には自分と同じ価値観でいてほしくなってしまう、と言っていて。だからこそ親とは別の、斜めの関係の大人が子供には必要なのかなと。シロさんにとっては、佳代子さんがそうですよね。彼はもう大人ですがそれでも、「いいじゃん!」と言ってくれる佳代子さんのような大人が必要なのだと思います。