昨年12月18日に主演ミュージカルの公演先である北海道札幌で急逝した神田沙也加さん(35)。ミュージカルデビューとなった「イントゥ・ザ・ウッズ」で17歳の神田さんを主役に抜擢した演出家の宮本亞門氏が、月刊「文藝春秋」に神田さんとの思い出の数々を明かした。
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初対面は2003年のオーディションだった。
「初めて会ったとき、沙也加さんがあの大スターの娘さんだとは全く知りませんでした。オーディションでは偏見をもちたくないので、履歴書には事前に目を通さないようにしています。元気に挨拶をしながら部屋に入ってきた彼女は、本当にいきいきしていた。何より印象的だったのは彼女の瞳。キラキラ輝いていました。またオーディションでの歌がとにかく素晴らしかった!沙也加さんが部屋を出た後、『この子はすごいよ!』と思わず口にしたことをよく覚えています」
ミュージカルの稽古が進むなか、あるとき彼女は亞門氏にこんな質問をぶつける。
「亞門さん、正直に教えてください。私の両親が有名人だったから、この役に選んでくれたんじゃないですか?」
亞門氏は一生懸命に説明したという。
「オーディションの中で本当に君が一番良かった、お願いだから信じて、と伝えました。沙也加さんはお母さんの松田聖子さんのことを、ものすごく尊敬していました。松田聖子さんは、歌の世界でトップを極めた人。その世界に足を踏み入れた以上、本気でやらなきゃいけないと決意していたのでしょう。『松田聖子の娘』ではなく、『神田沙也加』として、多くの人に認められたい――。芸能界に入ってもがき続けるなかで、彼女はミュージカルと出会ったのではないでしょうか」