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《費用目安は100万円》「親を捨てたい」という声の高まりで5年の間に相談者数が5倍に増加…終活をサポートする“家族代行サービス”の実態

『絶縁家族 終焉のとき―試される「家族」の絆』より #1 

2022/01/10
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 2021年5月6日に放映されたNHK「クローズアップ現代+」は「親を棄ててもいいですか?~虐待と束縛を越えて~」という特集で、深刻な家族問題に切り込み、大きな反響を呼んだ。はたして、家族関係に悩み、絶縁状態に苦しんでいる人はどれほどいるのだろうか。

 ここでは、日本葬送文化学会常任理事の橘さつき氏による著書『絶縁家族 終焉のとき―試される「家族」の絆』(さくら舎)の一部を抜粋。絶縁状態のまま家族の死を迎えた人の苦悩を浮き彫りにした同書から、高齢の家族の「終活」を家族の代わりに行う「家族代行サービス」の実状について紹介する。(全2回の1回目/後編を読む

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「親を捨てたい」という相談

 終活全般をサポートする民間団体、一般社団法人LMNの遠藤英樹代表理事に話を聞いた。

 ここでは介護から看取り、葬儀に納骨、死後の遺品整理、相続と、終末期から死後まで包括的に家族に代行するサービスを提供している。

 依頼者が望めば、ほとんどのことを家族に代わって引き受けてもらえる、数少ない終活団体だ。

 NHK「クローズアップ現代+」の反響はかなり大きく、最近は問い合わせの8割は親の世話が負担だ、介護をしたくないという相談になってきているという。5年前にはほとんどなかった相談だ。

 そして、そういう相談者のほとんどが今までに何かしらのカウンセリングを受けていて、カウンセラーから「嫌なら親から逃げなさい!」「いいよ、親を捨てても」と言われた人たちだという。

 長年にわたって親との関係に苦しんできた人が、「自分の人生を破滅させないために、親を捨てることも選択肢の一つだ」と諭されても、具体的な方法は教えてはもらえない。

 しかし、「捨てる」ためにはそれなりの受け皿が必要である。「どうしたらできるのか?」と困惑してLMNに相談が寄せられるらしい。

むやみな放棄は「保護責任者遺棄罪」「死体遺棄罪」に問われる

 行政は何かあれば必ず家族、血縁者に連絡が行くようになっている。むやみに介護も看取りも放棄すれば、保護責任者遺棄罪や死体遺棄罪に問われてしまうことになりかねない。

 家族からはそう簡単に逃れられるわけではないのだ。

 ここ5年の間に、親の介護の負担から逃げたい、絶縁している親の世話をしたくないといった相談や依頼が急増したという。とくにこの一年の「親を捨てたい」という声の高まりに呼応して、相談者が5倍に増加したというのは驚きである。

 だが、相談は多くあっても、一切親の介護も看取りも何もしたくないから、すべて任せたいという依頼はごく少数派だという。

 大抵は「親を捨てたい」と言いつつも、まだそれだけの覚悟はなく、相談することや契約することでひとまず安心するのか、落ち着く人が多い。

 「なにも最初から『捨てる』とまで、覚悟を決めなくてもいいんですよ。人生に決まったシナリオなんかないものでしょう。そのつど、考えて私たちに依頼したいことを決めてもらえばいいんですよ」

 と遠藤氏は語った。