「ライアーを弾きながら歌っている人を見たことはなかった」
――ピアノや声楽を経て、どのようにしてライアーにたどり着いたのでしょうか。
木村 腹式呼吸ができないから、声楽のレパートリーが歌えなくなってしまって。その当時私が何とか楽に歌えたのは「赤とんぼ」「浜辺の歌」といった童謡や叙情歌、また簡単な賛美歌のような曲だけでした。ギターの弾き語りで歌おうとしたけど、左手の指で弦を押さえるのがどうも難しい。四苦八苦していたそんな時、ライアーの合奏曲が演奏されるコンサートを鑑賞したんです。膝の上にライアーを抱えて弾いている姿を見て、「こういう楽器があったんだ!」って。すぐに買いに行きました。
とはいっても、やっぱり最初は弾くのが難しかったですね。触っているうちに、だんだんと慣れて。それでも歌える曲が少なかったので、「じゃあ、自分で作るしかないか」と曲を創作するようになりました。
――『千と千尋の神隠し』の公開後、ライアーを手に弾き語りをする木村さんの姿はお茶の間に強烈なインパクトを残したと思います。そもそも、ライアーの弾き語りは演奏のスタイルとしてポピュラーなものなのですか?
木村 どうなんでしょう? 実は私は歌を始めた当初から、そんな風に抱えて弾き語りのできる竪琴があれば……というイメージを何故か持っていたんです。でもそう言われると、当時私もライアーを弾きながら歌っている人を見たことはありませんでしたね。ギリシャ時代やエジプト時代の竪琴は、主に歌いながら弾く演奏形態だったのではないか、というような話は聞いたことがありますけれど。
これは後から知ったんですけど、ナウシカのモデルになったナウシカアーというギリシャ神話に出てくる王女がいるんです。そのナウシカアーも竪琴を弾いて歌を歌っていた人なんですよね。それを聞いて「いつも何度でも」に至る前から、なんだかそういうご縁もあったのかもしれないなって思って、嬉しく感じました(笑)。
写真=末永裕樹/文藝春秋