一緒に「やった!」と喜び、お互いハイタッチするカルチャー
ただ、五輪におけるスケートボードカルチャーの露出はそれだけではなかった。滑走後に、他国選手に抱き抱えられた岡本碧優選手のシーンもその最たる例だったと言える。
というのも、スケートボードには他の競技のような選手同士がバチバチするようなところは一切なく、皆で楽しく滑って自分越えをしていくという文化が根付いている。他の選手が素晴らしい技を決めたら、参加している選手は、みんなが一緒に「やった!」と喜び、お互いにハイタッチして盛り上げるような風習が昔からあるのだ。そのため、あのシーンは元来スケートボードコンテストが持っている美しい姿を象徴するものであり、それが五輪の金メダルをかけた最も重要な場面で起こり、全国のお茶の間に届けられたのだ。
このように競技としての魅力にプラスして、カルチャーとしての魅力も様々な方向から伝わったことが、昨年の一大フィーバーの大きな要因だったのではないかと思う。
五輪後も人気のスケートボード、その一方で問題も…
その五輪の熱狂からおよそ5ヶ月が経過した現状はというと、各地のスクールは盛況で話題のレッスンは、キャンセル待ちが出るほどの人気になっている。また、来年11月には江東区の夢の島総合運動場、2024年には代々木公園にスケートパーク建設の話が決まるなど、全国で競技環境の整備が進められている。ブームを追い風に、ポジティブな話題を数多く振りまいているのだ。
しかしその一方で、あえて人目につきやすい繁華街で滑る一部のスケートボーダーの行為が迷惑だと大々的に取り上げる記事やニュース、コメントも目立つようになっている。
実際に、東京都大田区のスケートパークは、完成しているにも関わらず、近隣住民からの苦情により計画が頓挫、最終的には中止に追い込まれ、一度もオープンすることなく、閉鎖されたままの状態となっている。
ここには、スケートパークだけの範疇には収まらない、現代の地域社会が抱える多くの問題が詰まっているのだが、こういった事例からみても、今後のスケートボード界の課題は、「社会と共存」が大きなテーマになっていくことは間違いないだろう。
パリ五輪でメダルは獲れるのか
では、最後にパリ五輪に向けた今後の展望について触れていこう。前述したように、直近の日本選手権では、10代前半の選手が活躍している。それに加えて東京五輪によって、スケートボードが注目を浴び、スポーツとして力をつけられる環境の整備が、全国各地で相次いでいる。
2年後のパリ五輪で、多くの日本人選手がメダルを取る可能性は、限りなく高いと言えるのではないだろうか。東京五輪に出ていた選手でも安泰ではないほど競争が激しくなっていても、決しておかしくはない。