所得税法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴された日本大学の田中英壽前理事長が2021年12月21日、保釈された。逮捕前は「徹底抗戦」を示唆していたとされる田中前理事長だが、特捜部に「妻の疑惑」を攻められると態度を軟化させ、約5200万円の脱税についてはおおむね認める供述をしたと伝えられる。
すでに理事長を解任され、大学側から「永遠、永久に決別」(加藤直人学長)するとまで宣言された「日大のドン」だが、今後、大学内から田中前理事長の影響力を完全排除するミッションには高いハードルが待ち構えている。
学内で長年にわたり独裁体制を敷いてきた田中前理事長は、学内事情にとどまらず、アマスポーツ界や政財界の暗部を知り尽くす立場にあった。大学側が「脱・田中路線」を強行すれば、本人や元側近たちが日大や関係者にとって「不都合な真実」を語る可能性もあり、絶対的権力者への退場宣告には大きなリスクが潜んでいる。
「田中さんの権力基盤は、組織の要路に腹心を配置し、忠誠者に十分な見返りを与える一方で、裏切り者は必ず潰すという、その徹底した信賞必罰によって構築されたものでした」
そう語るのは、1970年代から田中前理事長を知る日大の現役校友会幹部である。
「2018年にフェニックス(日大アメフト部)の悪質タックル問題がありましたが、あのとき最終報告書で厳しく指弾されたはずの加藤直人部長、井ノ口忠男理事、内田正人監督、井上奨コーチはどうなりましたか? 加藤さんは学長に栄転。井ノ口は2年後に理事復帰。内田と井上は、大学を相手取り民事訴訟を起こしましたが、あっさり勝訴に等しい和解を勝ち取っている。井上は日大職員に復帰しています。要するに誰ひとりとして失権していない。何かあっても、田中さんを守り切る姿勢に徹すれば、悪いようにはしないという大きな力が働いていたわけです」
現在の加藤直人学長は、悪質タックル問題発生時、アメフト部の部長をつとめていた。周囲からは「田中派」と見られているが、別の言い方をすれば、日大の執行部に「反田中派」はそもそも存在しなかったという。校友会幹部は続ける。
「絶対的なタテ社会に君臨する権力欲、あるいは独特の金銭感覚と納税に対する意識の希薄さ、こうした田中さんの考え方、行動原理はすべて、田中さんが相撲部監督として台頭した時代に培われたものだと思います」
暴力団幹部との親密写真の存在が報じられた際も「合成写真だ」と一蹴し、疑惑の説明には応じなかった田中前理事長。その不可解とも思える自信の「ルーツ」はどこにあるのか。組織のリーダーとしての「原点」とされる相撲部監督時代を検証してみたい。
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アマチュア時代に34個のタイトルを獲得
2018年の悪質タックル問題、そして今回の事件でメディアの取材には一切対応していない田中前理事長だが、日大相撲部監督時代は、大相撲担当記者や、故郷・青森の地元紙の取材には柔軟に対応していた。