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相撲以外の細かいことは何も知らないし、興味もない人

 冒頭の校友会幹部が語る。

「田中さんは人前で語らないため黒幕のイメージが定着していますが、口下手なだけで、その実像は独り歩きしている部分もあると思います。もともと上京した際、青森県の訛りをバカにされるのが嫌であまりしゃべらなくなったとも聞きますが、相撲のことには精通していても、社会全般のことには無知で、奥さんや周囲の取り巻きが田中さんの名を借りて“ミニ田中”となり暴走していた側面はあると思います」

 この校友会幹部は、田中氏の人柄を示す逸話を挙げた。

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「日本大学の系列校で、東京・文京区にある豊山高校があります。あのアメフト問題で解雇された内田正人監督の出身校ですが、この高校の式典に出席した田中さんは、『ブザン』と読むところ、『ユタカヤマ』高校と読んでしまった。確かに相撲関係者からすれば、元大関で相撲協会の理事長もつとめた初代豊山(元・時津風親方)は有名ですが、自分のところの系列校ですからね。生徒からしたら衝撃だったかもしれません。要は、相撲以外の細かいことは何も知らないし、興味もない人です。アメフトのルールも知らなければ、納税のルールや善管注意義務についても無知。そういう意味では大悪人ではないと私は見ています」

 田中氏の過去の「語録」を見ると、確かに「沈黙のドン」とは異なるイメージも見受けられる。

後援会で演説する田中前理事長

2つの顔の「ギャップ」

《まあ、部員には女に惚れるなとはいうよ。とはいっても、年頃だもんな。われわれだって穴があればいい、という時代もあったんだから(笑)。いや、ホントにね、そんな連中に“女、ダメだよ”といっても無理だ。

 舞の海なんか学生時代はモテなかったよ。プロに行ってからだよ。やっぱりビン付け油の匂いがいいんだろうな(笑)》(『週刊大衆』1993年8月23・30日号)

《(本番で力を出せない)そういう子には、酒を一緒に飲むなど時間をかけて意識改革に努めます。たとえば親鸞や日蓮の話から始まって、信長や秀吉、家康など武将の性格の違いなどを話題にする。彼らに関する本を読むことを勧め、読んでどう感じたかを聞く。そして「そうか、俺はもう思ったのだがなあ」などというやりとりを2年ぐらいかけてやるのです》(『宝石』1993年8月号)

田中夫妻と人気力士の遠藤。遠藤も日大出身だ

 アマ相撲の優秀な指導者としての顔と、金銭欲、権力欲にまみれたマンモス大学理事長の顔――両者の「ギャップ」はあまりに大きい。

 指導者として才能を発揮した田中氏が、ワンマン経営者にありがちな陥穽にはまった背景には、相撲における「タテ社会の論理」を実社会にまで応用しようとした錯誤と、高度なコンプライアンスが求められる時代の変化に取り残された「古い相撲人の悲劇」があったとしか言いようがないだろう。

 昨日、9日からは大相撲の1月場所がはじまっている。日大出身の力士たちは、母校の現状をどんな風にみているのだろうか。