いじめ防止対策推進法の不備を強調する展開に
こうした市教委の姿勢を疑問に思った健太さんは、市側の責任を追及するために訴訟をした。2018年9月の第1回口頭弁論で、市側が健太さんへの卒業証書を渡そうとした。しかし、母親が「法廷で卒業証書とは非常識ではないか」と拒否していた。また、裁判で市側は、顧問からの体罰を否認。いじめについても、報告書の内容を事実上否定する主張を繰り返していた。いじめ防止対策推進法の不備を強調する展開にもなった。
2021年12月15日、さいたま地裁は、原告側の一部勝訴となる判決を下した。それによると、1年時の担任はLINE外しという典型的ないじめにも関わらず、その重大性を認識せず、被害者の健太さんへの聞き取りや調査、部活顧問との情報共有を行わなかった。この点について、精神的に苦痛を与える行為として、いじめ防止対策推進法の「いじめ」に該当するとした。
また、最初の不登校と合わせて30日になったことで「重大事態」を認識し、健太さんに対する言動やその背景事情について、調査票を用いるなどの調査をし、その結果に応じた適切な方法で部員らを指導し、健太さんへの支援を行うべきだったとした。
市側は判決を受け入れて、控訴しないことを表明
さらに、教頭(当時)が、部員らの保護者に対して、「いじめはなかった」旨を伝えた。しかし、十分な調査を行なっていないため、「ありもしないいじめを訴えている」という印象になった。そのため、健太さんの不信感や反発を強め、登校のさらなる障害になったとし、「いじめはなかった」などの発言をしない義務を負っていたという見解を示した。
争点の2つ目は、川口市教委の対応だ。市教委は、遅くとも2016年10月24日までに、中学校の教諭らの認識する事実をおおむね知らされていた。にもかかわらず、市教委は、重大事態としての調査を怠り、調査の必要性を学校の教諭らに指導しなかった。このことは職務上の義務に違反する、と地裁は位置付けた。
2021年12月24日の記者会見で、市側は判決を受け入れて、控訴しないことを表明。奥ノ木信夫市長は「元生徒に長期間、心身ともにつらい思いをさせた。重大事態だと最初から認識しながら、深く突き詰めなかったことがこういう結果をもたらした」などとして謝罪していた。