浅野忠信 ©文藝春秋

 こんな刑事がいたらなあ。浅野忠信が演じる『刑事ゆがみ』の主人公、弓神適当(ゆがみゆきまさ)を見ていて、つくづく思う。

 うきよ署、強行犯係刑事の弓神は、その名のとおり適当で、ちゃらんぽらん。服装も生活態度もだらしなく、規律と慣例を重んじる警察組織にはなじめないタイプだ。

 しかし直感に長け、事件周辺にいる人物たちの、ささいな言動の“ゆがみ”を見抜き、へらへら笑いながらネチッコイ捜査で核心に迫る。

ADVERTISEMENT

 出世欲もないから万年ヒラ刑事だ。いい加減だけどタフな男を演じると、さすが浅野忠信は巧い。日本映画のトップ俳優が出たんだから、みんな有難く観なくちゃ。

 弓神のバディ役は、秀才タイプで昇進欲の強い若手の刑事、羽生虎夫だ。一言でいえば、いけすかない嫌な奴だ。しかし所詮は若僧だから、弓神に「童貞くん」と馬鹿にされる。そんな可愛げのない新米刑事を神木隆之介が演じ、これまた巧い。弓神と同期だが、すでに係長職のクールな菅能理香(稲森いずみ)もいい味だしている。

 脚本も映像センスも水準以上の出来だ。第一話では痴漢事件を誘発、ときにデッチ上げて乗客を恐喝していた女子大生が殺された。

 事件の舞台となった駅へ行くと、羽生の中学時代の同級生が駅員(杉咲花)だった。初恋の相手と再会し、正義感も燃えさかって捜査に前のめりになる羽生だが、犯人に罠を仕掛ける弓神が一枚うわてだ。残酷な真相を見せられ落ちこむ羽生。世間知らずの若者が、一見テキトーな先輩の背を見ながら成長していく物語でもある。杉咲花の存在感も圧倒的だった。

 じつは弓神には裏バディがいる。七年前に両親をロイコと呼ばれる猟奇殺人犯に殺されたヒズミ(山本美月)だ。

 事件のショックで記憶と声を失ったヒズミだが、その天才的ハッカー能力を借り、しばしば違法スレスレの捜査に協力させる。マンガ喫茶に寝泊りし、弓神の差し入れたパンを大口あけて頬張り、パソコンに向かうヒズミが格好いい。硬直した警察組織の力だけで事件解決は無理だ。そしてロイコ事件が復活した兆しが五話でちらと顔をだす。

 昔と比べて、頬もふっくらした浅野が、署の屋上で、係長の稲森に「一本ちょうだい」とタバコをねだり、二人で煙を吐くシーンも味がある。タバコを吸いながら、弓神は猟奇犯を追いつめる、どんな奇策を頭に描いているか。

▼『刑事ゆがみ』
フジテレビ 木 22:00~22:54