「安いニッポン」として取り残される
日本の値上げラッシュを引き起こしているのはエネルギー価格の上昇だけではない。原材料費や物流費も上がっているところが、今回の物価上昇の大きな特徴だ。
昨春、輸入木材の価格高騰が「ウッドショック」と呼ばれて話題になった。その後、銅やアルミ、鉄鋼など金属素材の価格が高騰する「メタルショック」も発生している。これにより国内の建築・住宅関連の物価が大きく上がった。
こうした物価上昇は日本だけの現象ではない。欧米の主要国は好景気だし、多くの新興国で経済が大きく発展しているため、世界では日本以上に物価が上昇している。
スイスの大卒の初任給は日本円で年収900万円。日本(270万円)の約3倍だ。日本は韓国よりも1割近く初任給が低かった。ただしスイスは賃金も高いが物価も高く、ハンバーガーの価格が、日本の390円に対して、800円(6.5フラン)と倍以上もする。
消費者が購入するモノやサービスの価格を示す「消費者物価指数」をみると、昨年10月は日本が前年比0.1%の上昇と、ほとんど横ばいなのに対して、アメリカは前年同月比で6.8%、イギリスは5.1%と上昇している。ユーロ圏全体では4.9%と過去最高で、韓国は3.7%と10年ぶりの高さだ。
このところ「安いニッポン」という言葉が広まっているように、日本は取り残されているのだ。
こうした世界的な物価高のため、輸入品の価格の動きを示す「輸入物価指数」は、直近のデータとなる2021年11月で前年比44.3%アップという強烈なものだった。
私たちが購入する消費財(車、家具等の耐久消費財や、食料品、日用品等の短期の消費財がある)の約4分の1は輸入品なので、輸入物価の値上がりから逃げることはできない。
この世界的な物価高に加えて、円の購買力が低下する「円安」という要素もある。
アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は昨年12月、量的緩和策の縮小を前倒しすると発表し、今年中に3回の利上げを実施するという見通しを示した。
景気回復を優先するスタンスを転換したわけだが、アメリカ経済は腰が強く、少々の利上げでは景気が悪化しそうにない。世界中の投資家が景気の勢いが強く金利の高いアメリカに投資資金をシフトさせるので、相対的に円安が進むことになる。
日本は当面、海外からの値上げ圧力にさらされることになるだろう。
◆
熊野英生氏による「『悪い値上げ』傾向と対策」全文は、月刊「文藝春秋」2022年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
「悪い値上げ」傾向と対策