エコノミスト・熊野英生氏による「『悪い値上げ』傾向と対策」の一部を公開します。(月刊「文藝春秋」2022年2月号より)
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新年早々から恐縮だが、今年は値上げの1年になるだろう。昨年から値上げのニュースが目に付くようになったが、その傾向がさらに進むと筆者は見ている。
昨年はガソリンや灯油の価格が大きく上昇し、電気やガスなどの公共料金は今年の2月まで6ヶ月連続で値上げされる。昨年初めと比較すると大手電力10社、大手都市ガス4社ともに15%近くも上昇していることになる。
それだけでない。パンやマーガリン、牛肉、コーヒー、食用油、冷凍食品、飲料、砂糖、マヨネーズといった調味料など、多くの食料品が値上げされ、今年も多くのメーカーが値上げを発表している。
値段を据えおきながら量を減らして、実質的に値上げする「ステルス値上げ」は以前から目についたが、もはや、それでは各企業ともしのげないのだろう。
「スタグフレーション」に陥るリスクがある
昨秋、緊急事態宣言が全面的に解除され、消費マインドも回復基調にのったところに、一連の値上げラッシュが襲い、オミクロン株と共に景気に冷や水を浴びせた格好だ。
しかしながら値上げ(物価高=インフレ)は絶対悪ではなく、良いものと悪いものがある。
「良い物価高」とは景気拡大と同調するものだ。商品が値上げされると、それを販売する企業の売上高が増えて、社員の給料が上がり、消費活動が活発になる。このサイクルが社会全体で回り始めると、景気は良くなっていくのだ。
一方、「悪い物価高」とは、モノの値段は上がっているのに、給料が増えない状態のことだ。消費者は買い控えを余儀なくされ、その結果、各企業の売上が減少する悪循環が生じてしまう。
いまの値上げラッシュは言うまでもなく後者である。このままでは1970年代のオイルショックのように、不況なのに物価高が進む「スタグフレーション」に陥るリスクが高まっている。
値上げラッシュが起きている原因
なぜ、いま値上げラッシュが起きているのか。その状況から自分たちの生活を守る方法はあるのか。「悪い物価高」の傾向と、それへの対策を論じてみよう。
値上げラッシュの原因を探るために、まず押さえておくべきなのは、製造コスト、輸送コストなど多くの要素へ影響を与える原油価格だ。原油価格の代表的な指標は、ニューヨークの先物市場で取引されるWTIである。