参考にした映画のひとつがカサヴェテスの『こわれゆく女』
――映画は最初、春という女性の物語のように進みますが、徐々に美香子の存在が大きくなっていきますよね。
野原 毅と美香子の物語は最初の脚本からあってあまり変わっていないんですが、脚本が変わって春が主役になったことで美香子の物語が浮かび上がってきたんだと思います。子供を持たずパートナーとも別れて孤独に陥る春と、夫も子供もいて一見幸せそうに見えるけれど実は何かがうまくいかなくなっている美香子。正反対に見える2人を並行して見せられたら、この年代の女性の生き方についてもいろんな考え方が見えてくるのかなと。
――映画は、オープンエンディングとも言える、余韻を残した終わり方をしますが、春がその後どうなるか、毅と美香子の関係がどう決着したかは、あえて見せないということだったんでしょうか。
野原 この映画をつくるうえで参考にした映画のひとつがカサヴェテスの『こわれゆく女』(1974)でした。ジーナ・ローランズとピーター・フォーク演じる夫婦が壮絶な喧嘩をしながら、結局は疲れ果てて寝てしまう、という終わり方がすごく好きなんです。きっとこの夫婦はこういう喧嘩を延々しながら最後まで夫婦でありつづけるんじゃないか、それはそれで幸せなのかもしれないなという気がして。美香子と毅も、あの車中での言い合いの結果がどうであれ、一人息子をもち、一度家族として繋がった関係性は映画の終わった後もずっと続いていく、そういう終わり方にしたかったのだと思います。
――最後に、監督はこの映画を「女性映画」と考えていたんでしょうか。
野原 僕自身は群像劇のようなものとして考えていた気がします。女性の生き方をめぐる物語ではありますが、春を中心に周囲の人々がそれぞれ抱えていた問題が徐々に浮き彫りになっていく。これはそういう映画だと思っています。
のはらただし/1983年生まれ。2015年、共同脚本・プロデューサーを務めた『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)が国内外で大きな評価を得、2020年、『スパイの妻』(黒沢清監督)でも濱口監督と共同脚本を手がける。本作が劇場デビュー作。
INFORMATION
『三度目の、正直』
2022年1月22日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
https://sandome.brighthorse-film.com/