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 デリヘルで働いて8年目となる2020年、新型コロナウイルスの流行によって風俗業界も少なからぬ影響を受け、珠理の収入は激減した。また、それとは別の事情で生活環境にも変化があり、彼女は決断を下した。

「まだ続けたいとは思っていたんですけど、仕事を辞めた母親と実家で同居することになって、風俗の仕事をしているとも言えないので、デリヘルは辞めて昼間のアルバイトをするようになったんです」

 現在は、配送センターで週に4日ほど働いている。月の手取りは10万円ほどだ。それに母親の年金を合わせて、暮らしているという。

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 学校にも社会にも馴染めなかった珠理は、デリヘルの仕事に出合えたことにとても感謝していると言った。

「デリヘルが私のことを救ってくれましたね。そこでいろんな人に出会って、人生経験を積めたから、いまも昼間の仕事ができているんだと思っています」

 勉学は彼女を救えなかったが、風俗は救ってくれたのだった。

金魚を食べずにはいられなかった少女時代

「中学時代に両親が別居してから急に生活が苦しくなって、かなりの貧乏でした。冷蔵庫は空っぽなのが当たり前で、いつもお腹が空いてたまらなかったですね。満腹という感覚を忘れていました、あのころは」

 都内のとある駅で待ち合わせをした侑子(40歳/仮名)は、Tシャツにジーパンというラフな恰好をしていたが、年齢以上の若々しさがあった。ルミ(編集部注:筆者が過去に取材した女性)の紹介ではあったが、彼女はデブ専ではなく一般的なデリヘルで働いていた。  

 最初の緊急事態宣言が解除されてから1カ月すこしが経った2020年7月。侑子の案内で近くにあるファミレスに向かった。ほかの客から少し離れた場所にある4人掛けの席につく。まず話してくれたのは、経済的に貧しい生活を強いられた少女時代の思い出だった。  

「夏祭りで友達が金魚すくいをしたんです。お金がないから、私はただ眺めているだけ。前の日から何も食べてなくて、金魚が食べ物にしか見えませんでした。手づかみで取りたい気分でしたけど、なんとか我慢して。友達が金魚をすくうと、それをすぐにもらってひとけのないところに行って、ライターで炙りました。ついてきた友達は私がしていることの意味がわからなくて呆然としてましたけど、そんなこと気にしていられません。ヒレが少し焦げた金魚を口に入れて嚙んだんですけど、ものすごい生臭さで。飲み込もうとしたんですけど、我慢できずに吐き出しました」