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「女性裁判官は迷惑をかける」?

 しかし考えようによっては、マスプロ教育とは対極にある気の配り方で、司法試験だけでは判断できない法律家の資質を見抜き、全人教育を目指そうとした当時の法曹教育の姿勢は評価されて良いのかと思う。

 教官の方でも修習生の人物評価をし、最高裁の求めている裁判官像に合うかどうかを判定するには、教室だけでは不十分である。そこで教官宅への訪問はなかば義務的に行なわれ、ローテーションを組み1回10名ずつくらい、数回に分けてクラスのほぼ全員が教官宅訪問を行なうように仕組まれていた。

 昭和51年5月26日、8組の修習生10名ほどが担任の大谷(仮名)民事裁判教官の自宅を訪ねた。いろいろな話をしながら、ある女性修習生が「女性に対する“任官差別”があると聞いていますが、どうなんですか」と尋ねた。

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 同教官は、「女性裁判官は生理休暇などで休むから、他の裁判官に迷惑をかける。女性弁護士も迷惑をかける点では同じでしょう。僕も合議体(3人の裁判官で裁判をするチーム)にいたとき、なかに女性がいて迷惑しましたね。地方裁判所の所長クラスが、そういう点で一番迷惑するんですよ」と答えた。

 女性裁判官のために正確に記しておくと、後に最高裁判所事務総局で調べたところ、女性の裁判官で生理休暇をとったという人は、それまで一人もいないということであった。

 また、別の教官も自宅訪問の際に「女なんかに、裁判はわかりませんよ」と言ったという。こういう話があちこちの組から聞こえてきた。入所早々に、複数の裁判教官から女性修習生に向かって発せられる女性差別発言に、司法研修所は揺れに揺れた。