20代の大学院生が恋をしたのは、80代の伝説の女優だった――。ハリウッドでも活躍した銀幕のスター、和楽(わらく)京子(きょうこ)こと、鈴さんと、彼女の荷物整理のアルバイトをするようになった岡田(おかだ)一心(いっしん)の交流を通じて、まったく新しい“優しさ”を『ミス・サンシャイン』で描いた吉田修一さん。二人の登場人物を長崎出身にした理由、ロサンゼルスでの取材や、20代と80代の“恋”について、話を聞きました。(全3回の1回目。#2、#3を読む)
初めて長崎の、原爆の話を書こうと思った
――新作『ミス・サンシャイン』は大学院生の岡田一心君が伝説の映画女優「和楽京子」、本名・石田(いしだ)鈴(すず)さんの自宅で荷物整理のアルバイトをすることとなり、交流を深めていく物語です。かつてハリウッドでも活躍し、80代になった現在は引退して静かに暮らしている鈴さんの来し方が描かれていく。また、一心君も鈴さんも長崎出身で、鈴さんは被爆者でもあります。とても楽しく、そして胸を打つ内容になっていますが、執筆のきっかけはどこにあったのでしょう。
吉田 長崎の原爆の話を書きたいと思ったんです。そう思ったのは最近のことで、それまで僕は長崎出身なのに原爆について書くどころか、ちゃんと向き合ったことすらなかった。だから、ご自身が被爆された林京子さんのような方の切実な作品を読むたびに、自分なんかが扱っていい題材ではないとずっと思っていたんです。
でも、長崎や広島以外の人と話していると、原爆のことってこんなに知られていないのかと驚くこともあって。長崎とか広島で子供時代を過ごしていると、原爆のことを教わる機会が多いんです。
――ああ、作中でも一心君がそうしたことを感じる描写がありますね。
吉田 3、4年前のある日ラジオを聞いていたら、長崎出身の福山雅治さんが「僕にとって夏休みといえば、原爆なんです」という話をされていたんですよ。本当にその通りだと思ったんですよね。僕が子供の頃は夏休みの宿題といえば半分は原爆に関することで、被爆者の方のお話を聞きに行ったり、資料館に見学に行ったりしていたんです。そんなことを思い出しているうちに、戦争第一世代ではない自分でも、原爆についてなにかしら語る手立てがあるのではないかと考えるようになりました。そうした頃に『文藝春秋』から連載の依頼が来たんです。