20代の大学院生が恋をしたのは、80代の伝説の女優だった――。ハリウッドでも活躍した銀幕のスター、和楽(わらく)京子(きょうこ)こと、鈴さんと、彼女の荷物整理のアルバイトをするようになった岡田(おかだ)一心(いっしん)の交流を通じて、まったく新しい“優しさ”を『ミス・サンシャイン』で描いた吉田修一さん。吉田さんが「昨日より今日の方がよくなっている」と思う理由や、代表作の一つである横道世之介シリーズについてうかがいました。(全3回の3回目。#1#2を読む)

吉田修一さん

変な言い方ですが、手を抜けるようになりました

――本当に優しさを感じる作品です。吉田さんは今年、作家デビュー25周年ですよね。コロナ禍もそうですが、時代の変化について思うことってありますか。

吉田 昔から言っているんですが、僕はいつも、昨日より今日のほうがよくなっているという感覚があるんです。そんなことないよって思う人も多いだろうけれど、僕自身の感覚としてはそう。もちろん悪い方向にいっていることもあるけれど、そんなに悲観はしていないんです。

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 だって、若い頃に比べて、本当に嫌な人って減ったと思いませんか。昔はなんでこんなにデリカシーがないんだろうって人が周りにいっぱいいたけれど、最近は意地悪な人がどんどん減っている気がします。

――以前、生前の河野(こうの)多恵子(たえこ)さんに「作家は40代が勝負よ」と言われたというお話をうかがいましたが、50代になって、どう感じています?

吉田 河野さんにそう言われたのは、僕が40代になりたての頃だったんですよね。谷崎潤一郎をはじめとした大作家たちは、代表作を40代で書いているということだったので、僕も頑張ろうと思ったんです。でも最近、川端康成の作品を読んでいて「これ何歳くらいで書いたんだろう」と確認してみると、60代だったりするんです。河野さんがおっしゃったのは、40代で体力をつけておかないと後で続かないよ、という意味合いだったのかなと今では思っています。

 

――体力つきました?

吉田 どうですかね。変な言い方ですが、手を抜けるようになりました。以前は「すべてを伝えたい」と力んでいたから、受け取るほうもお腹いっぱいになってしまっていたかもしれません。でも肩の力を抜いて書けるようになってきて、ようやく、『ミス・サンシャイン』に辿り着けた気がしています。これってガチガチに書くこともできる題材じゃないですか。でも敢(あ)えてそうしなかったことが、自分にとっての成長かもしれない。

――肩の力を抜くって、もう少し具体的にいうと、どんな感じでしょうか。