20代の大学院生が恋をしたのは、80代の伝説の女優だった――。ハリウッドでも活躍した銀幕のスター、和楽(わらく)京子(きょうこ)こと、鈴さんと、彼女の荷物整理のアルバイトをするようになった岡田(おかだ)一心(いっしん)の交流を通じて、まったく新しい“優しさ”を『ミス・サンシャイン』で描いた吉田修一さん。二人の登場人物を長崎出身にした理由をうかがった1回目に続き、吉田さんがお好きな成瀬己喜男監督作品の魅力や、20代と80代の“恋”について、話を聞きました。(全3回の2回目。#1、#3を読む)
女優・和楽京子の一生は、戦後日本と呼応している
――ああ、なるほど。本作は、鈴さんの活躍を追いながら、映像業界の変遷を俯瞰できる面白さもありました。彼女は戦後間もない頃は、生命力にあふれた肉体派として強い女性を演じ、東京オリンピックを境にテレビが各家庭に普及するとドラマでお母さん役をやるようになり、やがて「金妻(きんつま)」を彷彿させる、主婦が不倫に走る『日曜日の欲望』というドラマにも出演する(笑)。その時代ごとに求められているものにうまくハマっている印象です。
吉田 鈴さんの一生と、戦後の日本の流れがなんとなく呼応するようにしたいなとは思っていました。おっしゃる通りで、男社会だった映画界において、その時代時代で求められる女性像があったんですよね。戦争が終わったすぐ後はああいう肉体派女優が必要とされて、その後は家庭的なお母さんが望まれ……みたいな状況は意識しながら作っていきました。
吉田 映画の黄金期って、その国の成長期と重なるんですよ。日本は1950年代に映画もぐーっと成長して、その頃に作られた作品は世界的にも評価が高い。他の国を見ても、たとえば台湾が民主化に向かう頃にはホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンが活躍しているし、香港ではイギリスから返還される頃にウォン・カーウァイが世界的に評価され出しているし。国が大きく変わろうとしている時期の映画は、エネルギーに満ちていてすごく面白い。