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吉田 文章で「説得」しようとしない、ということかな。伝えることを諦めるわけじゃないけれど、結局何が伝わるかは決められないというか。実生活においても、いくら言ってもわかってもらえないことはあるじゃないですか。そのへんの力加減ができるようになったように思います。
昔はもっと過剰に期待していたんでしょうね。こっちが100書いたんだから読み手にも100応えてほしい、みたいな気持ちがあった。でも今は、50しか書いていないのに60とか70返ってくるから、逆にそれが嬉しい驚きです。
――吉田さんは以前から、説明しすぎずに、でも伝わるように書かれている印象がありますよね。
吉田 『文學界』でデビューした頃、当時の編集長の庄野(しょうの)音比古(おとひこ)さんが毎回原稿を読んでくれたんです。庄野さんは、僕が「ここを書きたい」と思って力を入れて書いた部分を全部、「削除しましょう」と提案するんですよ(笑)。「大事なところは、直接的でない表現で書かなきゃ」と言うんです。「読者をそういう気持ちにさせるエピソードを一個考えなさい」って。
削る訓練を5年続けた
――たとえば『ミス・サンシャイン』でいうと、一心君と桃ちゃんについて、飲み水の好みが合わないという描写があって。この二人の行く末は大丈夫かなと読者に思わせますよね。
吉田 昔だったらそこで「映画の好みが合っていても、根本的な部分が合わない男女は上手くいかないものだ」なんて、そのまま書いちゃっていたんですよ。でも、毎日の基本である水の好みが違うという、決定的なエピソードの方が伝わりやすいかもしれないですよね。