紅白歌合戦の“男女対抗”への疑問
――「カラフル」という紅白の基本コンセプトを揺るがすテーマに踏みきった経緯を教えてください。
福島 僕は2004年にNHKに入って、14年前から年末恒例行事として紅白に関わっています。末端のスタッフに始まり、いろいろな担務を経験してここまで来るあいだに、自分が観たいものとアウトプットがずれている感覚がずっとあったんです。
たとえばジェンダーの観点から、紅白歌合戦の“男女対抗”に対してここ4~5年ずっと疑問を投げかけられているのに、番組サイドからは目立った発信をしてこなかった。紅白の男女対抗は、ゲームの形式なので必ずしも悪だとは思ってないですが、このままだと時代から取り残されてしまうのではないか。そういう危機感が潜在的にありました。それは、スタッフとして関わり続けてきた男性である僕自身の自己反省も含めてです。
自分が総合演出をやるとは思っていなかったんです。でもやるからには、今まで思ってきたことを世の中にプレゼンしないといけないなと。旗幟鮮明にコンセプトを示して、積極的に何かを変える。紅白ってわりといいコンテンツだと思っているんですよ。せっかく70回以上続けてきたんだし、歴史は大切にしつつ、でもちゃんとアップデートしていかないと、飽きられてしまうし若い世代からは見放されてしまう。紅白があと何年続くかは分からないですけど、“手術”はしないと……。そういう思いでした。
初めてパラアスリートと向き合った
――これだけ長年の歴史とブランド力がある紅白に対して、根本的な疑問を持つのって、けっこうつらいことですよね。
福島 なるべく事を荒立てずに済ませたいのが日本の組織じゃないですか。「紅白っぽさ」を守ってほしいという人もいるだろうし。これまでは何か理念が語られることってあまりなかったんです。今回僕は、演出内容に入る前に、テーマについてゼロベースで3~4カ月じっくり考える時間があったので、それはそれで結構苦しかったんですけど、その期間があってよかったなと。
2021年はコロナの感染状況やオリパラの開催をめぐって、毎週のように世の中の気分が変わる年だったので、どういうテーマが12月31日に刺さるか、半年以上先のことを4~5月の段階で考えるのがめちゃくちゃ難しかったんです。で、ずっとモヤモヤ考えていて。夏にパラリンピック開閉会式の中継ディレクターを担当したのがターニングポイントになりました。「カラフル」という言葉が浮かんできて。
――なるほど。
福島 これなら自分の言いたかったことも含めて、沈んだ世の中を明るくできそうだし、全部に当てはまるかもと思って。そもそも紅白自体、いろいろなジャンルのアーティストが出演していて、バラエティに富んでいてカラフルで、ずっと古いと言われている“男女対抗”形式をどうにかしたかった。「紅白」なのに「カラフル」というのは、カウンター的なメッセージとしてありなのかなと。
僕はふだん音楽番組とかコント番組を作っているので、パラリンピックの開閉会式の仕事が決まって、一から勉強したんです。中継の台本を書くとき、ついつい「義足の何々選手」と紹介してしまいがちなんですけど、果たしてそれでいいのかなと。
そうではなく、「この人はこういう選手で、義足の~」という風に直していって。初めてパラアスリートと向き合って、彼らの強烈な個性を目の当たりにして「一人ひとりをちゃんと見つめて、その色を伝えていかないと」と感じました。だから、そういう意味も込めて「カラフル」なんです。「これで行けるかも」と確信してから、局内調整するのが大変だったんですけど。