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“過去最低視聴率”だったNHK紅白の総合演出が語る「紅白=男女対抗から変えられたこと、変えられなかったこと」

福島明さんインタビュー #1

2022/01/31
note

「だったら『紅白』も『歌合戦』もやめちゃえばいいじゃん」

――どのあたりが一番大変でしたか?

福島 「カラフル」というテーマは、紅白の自己否定につながる言葉なので、そのコンセプトを共有するのも大変でしたし、グラデーションのロゴに変えるのも大変でした。トータルで3カ月くらいかかったでしょうか。

 一見テーマと矛盾するようなんですけど、僕は「紅白歌合戦」という看板は絶対に残したかったんです。その看板を残しつつ、見た目や雰囲気を刷新することで、世の中に「古くさいままじゃなくてアップデートしました」というプレゼンをする。これを第一歩として今回はやりたいと。

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――内部からの反対意見も多かったんでしょうか。

福島 もちろん反対意見もありましたし、「だったら紅組と白組で分ける『紅白』も、対抗戦である『歌合戦』もやめちゃえばいいじゃん」というさらに踏み込んだ意見も出てくる。「でもそれはまだやめたくないんですよ」という話を理解してもらうのもなかなか難しかった。「最初からいきなり全部やっても、世の中の人は付いていけないですよ」「1個ずつ変えていきませんか?」といろいろな人に話しながら説得していく感じでした。それで、夏のパラリンピックを経てようやく9月にテーマを「カラフル」に決めました。

変えられたところと、変えられなかったところ

――今回の紅白で、福島さんにとって「ここは変えられた」ところってどこですか?

福島 紅白の見え方、見せ方をアップデートすることはできたのかなと思います。今回の紅白で変えたのは大きく3つあって、司会とロゴと優勝旗です。これまでの「紅組司会」「白組司会」をやめて、川口春奈さんと大泉洋さん、和久田麻由子アナウンサーの3人全員が「司会」に。ロゴはグラフィックデザイナーの佐々木俊さんが手がけた、紅から白へ徐々に色が変わるグラデーションのデザインに刷新しました。で、実は最後に優勝旗を渡す“儀式”をやめました。これが変えたところ3点セットです。今回目指すべき方向性が、テーマの「カラフル」と新しいロゴで何となく見えてきました。

大泉洋さん、川口春奈さん、和久田麻由子アナウンサー。今回は「紅組司会」「白組司会」をやめて司会の3人が全出場歌手を応援した(NHK提供)

――ビジュアルイメージって重要ですよね。

福島 そう思います。テーマやロゴに関しては、自分一人で考えたというより、いろいろなクリエイターのアイディアを聞いたり、スタッフで議論して「紅白ってこういうことなんじゃないですか?」とみんなで作り上げた感じです。特に二項対立じゃないロゴのおかげで、大きく前進できたと思います。これ、実は右端から次の色がはじまっているんですよ。なかなか気づいてもらえないと思うんですけど……。

「歴史を大切にしつつ、アップデートしたい」という思いをグラフィックデザイナーの佐々木俊さんに伝えて、今回のロゴが完成した

――あ、本当ですね。言われてみればうっすらブルーが入ってる。

福島 映像作家の牧野惇さんによるOPムービーでも描いたんですけど、紅や白は、僕らが「紅白歌合戦」と言ってフォーカスしているだけで、世の中にあるいろいろな色の一部。みんながそれぞれの色を持っていて、そして実は次の色が始まっているよ、という今後10年の紅白のあり方へのメッセージを込めたつもりなんです。

映像作家の牧野惇さんが制作したOPムービー(「NHK紅白歌合戦」公式ツイッターアカウントより)

 10月からは目まぐるしくて、新しいロゴと司会者の3人が決まった後は、メインビジュアルの撮影、セットの発注。11月から曲順を決めはじめ、各アーティストシーンの演出を練り、台本を作成。12月はアーティストサイドとやりとりを重ねながら、曲目や演出内容を決めていきました。

――逆に「変えられなかった」ところとは。

福島 できなかったことを言い出すと、ありすぎてあれなんですけど。一番は何だろうな……。紅白って「テレビもまだまだ捨てたものじゃない」と思わせなきゃいけないコンテンツで、一応まだそういう役割を担っていると思うんです。そこが視聴率も含めて達成できなかったことでしょうか。

「やっぱりテレビってすごいな」とか、若い人が観て「テレビ局で働いてみたい」と思うとか、そこはもうちょっと頑張りたかったところです。いまひとつインパクトを与えられなかったことは残念でした。