2021年の大みそかに放送されたNHK紅白歌合戦は、令和3回目のテーマに「Colorful~カラフル~」を掲げた。改元前後には平成の紅白で屋台骨を担ったSMAPの解散、嵐の活動休止が続いたが、今回総合演出を務めたNHK制作局チーフ・プロデューサーの福島明さん(40)は、「スター不在だなんて全然思ってない」という。今回の紅白には「若者に媚びている」という声も多かった。制作陣がパーソナルな思いを乗せた「最高の音楽番組の形」をひもときながら、「第72回紅白歌合戦ベストアクト」と演出の裏話を存分に聞いた。(全2回の2回目/前編から続く)

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氷川きよし「自分の歌手人生と重ね合わせながら」

――今年1月、氷川きよしさんが2022年いっぱいで歌手活動を休止することが発表されました。年末の紅白で美空ひばりさんの「歌は我が命」を歌い継いだ姿を思い出した人も多かったと思います。

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福島 歌う直前のコメントで、司会の川口春奈さんから「氷川さん、今年はどんな1年でしたか」と聞かれた氷川さんが、「少しずつお仕事でも自分を出せるような感じになってきて、すごく充実した1年でしたね。作詞させていただいたりとか」と仰っていましたよね。台本では、こんな感じになっていて。

〈自然に自分を出せるようになった一年でした。作詞をしたり、趣味の園芸や料理が仕事につながり、嬉しかったです〉

2019年に放送された第70回NHK紅白歌合戦では、「紅白限界突破スペシャルメドレー」を披露した氷川きよしさん ©文藝春秋

――司会の大泉洋さんから「この曲にはどんな思いが」と振られて、氷川さんは「自分の歌手人生と重ね合わせながら、歌わせていただきたいなと思っています」と答えていましたが、ここの台本は……。

福島 台本を書く前に氷川さんと打ち合わせして、そのときにご自分の人生を振り返りながら、たくさん話をしてくれたんです。それで僕がまとめるよりも、氷川さんには自由に答えてもらえるように、〈(お答えください)〉とだけ書きました。あくまでもご本人の言葉で語っていただきたかったんです。

――当日は全身ブラックの衣装で、スパンコールがきらめくマントを羽織って熱唱。マイクには赤いバラがあしらわれていましたね。ドレスさながらの華やかさがありました。

福島 あの衣装には、氷川さんが言葉にできないメッセージが込められていたと思います。衣装は紅白の見どころの一つで、番組冒頭の川口春奈さんは「カラフル」を意識してイエローのセットアップでした。2020年の紅白で司会を務めた二階堂ふみさんもパンツスーツを選んでいて、女性が必ずドレスを着なきゃいけないわけでは全くないし、自分が着たいと思えて、自信を持った状態で臨める衣装を選んでもらいたい。女性は女性らしく、男性は男性らしくということではなく、その人らしさが出るのが大切だと思います。

 実は、今回の紅白のテーマが「カラフル」に決まる前から、僕の中では「あなたへ」的な裏テーマがあって。僕が紅白の総合演出の仕事をやることが決まった時、最初に「『最高の音楽番組の形』って何だろう」と考えたんです。自分がいち視聴者だった時の記憶をちょっとずつ呼び戻しながら、「この歌、もしかしたら自分のために歌ってくれてるのかもしれない」と思える瞬間をなるべく多く作ろうと決めました。

「今観ているあなたに届けている歌です」しかない

紅白の煌びやかなセットや衣装とは対照的に、NHKの演出部や制作部のスタッフはブラックスーツに革靴という装いでリハーサルと本番に臨むのだという

――紅白というオールターゲットを狙ってしまいそうな舞台で、あえてパーソナルに振ろうと。

福島 何となくマスに向かって「今年流行ったからこの曲をやります」ということだけだとちょっと寂しいです。今の時代、制作側の思いを伝えるには、「今観ているあなたに届けている歌です」という方法しかないんじゃないかと。大勢の人に観てもらいたい気持ちも当然ありつつ、その前に、一人ひとりに1曲でもちゃんと届くような番組の流れを作ろうと意識しました。

 僕、駆け出しの頃全然だめなディレクターだったんですよ。今回ケツメイシさんが歌ってくれた「ライフイズビューティフル」は、自分がNHKに入って2~3年目の頃によく聴いていた曲で。