紅白でインストを2曲もやるなんて前代未聞
――視聴率としても勝負どころの第2部の幕開けが、意外にも『ドラゴンクエスト』『鬼滅の刃』『新世紀エヴァンゲリオン』にスポットを当てた特別企画で。
福島 「序曲」「そして伝説へ」と、紅白でインストの曲を2曲もやるなんて前代未聞ですし、視聴率を意識したらインストはまずやらないです。スタッフは「本当に大丈夫なの?」と心配だったと思うんです。だけど、ここもちゃんと思いを乗せて作ったので、「なんで紅白で『ドラクエ』やってるの?」ってならなかったと思うんですよ。ゲームやアニメファンの皆さんは厳しいので、細心の注意を払って作りました。「NHK分かってる」ってつぶやいてくれているのを見たら、「やってよかった」と(笑)。
特にドラクエは僕が人生で色濃く影響を受けたゲームで、2016年に特番「ドラゴンクエスト30th~そして新たな伝説へ~」を担当しました。子どもの頃アメリカに住んでいて、僕はファミコンをやりながら日本語をドラクエで学んだんですよ。「へんじがない。ただのしかばねのようだ」に代表される堀井文体、 堀井雄二さんの作った言葉が、僕の日本語の原体験なんです。そして日本に帰ってきて14歳で観たのが『新世紀エヴァンゲリオン』でした。エヴァも思い入れの深い作品です。
――これまでの生活の中で取り入れてきたものだと。
福島 サブカル的なものや今流行りのものをパッと寄せ集めてあまりよく分かっていない感じにしてしまうケースはテレビでありがちなんですけど、そうならないように愛を注いだつもりです。ドラクエでいうと、すぎやまこういち先生に実際にお会いして取材させていただいたときに感じたお人柄を伝えたかった部分もあります。ちなみに、紅白でドラクエの曲を演奏したスタジオのイメージは、ゲームをすべてクリアしたあとにご褒美として出てくる秘密の部屋でした。
2021年はゲームやアニメファンにとって忘れられない1年でした。1986年に始まったドラクエが35周年を迎えた歴史的な年にすぎやま先生が亡くなり、1995年にアニメ版の放送が開始されたエヴァシリーズ26年の集大成として『シン・エヴァンゲリオン劇場版』が公開された。いわゆるオタク文化がいったん終焉した年だと思うんです。この“全オタク卒業イヤー”の卒業式として、紅白でドラクエの曲を演奏し、実現するはずのないエヴァのキャストがもう一回集まって、完全にマルを打とうと。まあ最後は寸劇になっちゃったんですけど(笑)。
「もう1回、テレビアニメ版のシンジでいかせてください」
――「こんなこと、本当に庵野さん許可出してるんですか?」と叫ぶ大泉さんが面白かったです。
福島 庵野さん、たぶん知らないと思いますけど(笑)。声の収録は画(え)がない中でしたが、収録現場はすごかったです。レジェンドの声優の皆さんが、「こういう言い方したほうが、現場で大泉さんがツッコミ入れやすいんじゃないかな」と提案してくれたり。シンジ役の緒方恵美さんは、一度声を入れたあとに、「もう1回、テレビアニメ版のシンジでいかせてください」と、ものすごく丁寧に仕事をしてくださいました。
本番では、大泉さんの喜劇役者としての力量が存分に発揮されたのも嬉しかったです。最後の「シンジ君!」は台本になかったセリフですけど、あそこまでの流れと間の取り方が絶妙ですよね。川口さんの乗っかり具合も素敵でした。ちなみに、和久田アナに今回の紅白で唯一ダメ出ししたのが、このコーナーです。「大泉さん、もう乗るしかありません!」って彼女が言うんですけど、そのときの顔。リハで演じたときに顔がもう完全に女優の顔になっていて。お芝居も大きくて。たぶん役者スイッチの入った2人の勢いに引っ張られたからなんですけど。ここはNHKアナウンサーとして言ってほしいです、と伝えました。でもそれ以外は彼女に全幅の信頼を置いてました。
――意外にもこうやって、紅白に個人的な思いを乗せられるものなんですね。
福島 随所にこちらの思いをちゃんと乗せて、伝えたつもりです。ただそういった個人的な思いも乗せた分、過去最低視聴率を記録したことについて、振り返りの記事やSNSに紅白大ゴケとか爆死とか書かれているのを見ると、「ここにちゃんと傷ついている人がいます」っていうのはお伝えしたいなと……。