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活動休止発表前の氷川きよしが「歌は我が命」に込めた思い NHK紅白の総合演出が「若者に媚びている」という声に言いたいこと

福島明さんインタビュー #2

2022/01/31
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――初任地はどちらだったんですか?

福島 最初は松山でした。自分がやりたいことと実際に制作している番組にギャップがありすぎて、仕事がうまくいかなくて。まだ引き出しもテクニックもないので思ったような表現ができなくて、苦しい時期でした。その頃によく聴いていた曲が「ライフイズビューティフル」。今、コロナ禍でつらい思いや苦しい思いをしている人に、きっとその努力は実りますよ、ということをどうにかして伝えたくて、絶対ケツメイシに紅白に出てもらいたかったんです。

 それで、代表曲の「さくら」でも「夏の思い出」でもなく「ライフイズビューティフル」を歌ってほしい理由を、「世の中を肯定して、生きるって素晴らしいとケツメイシから勇気をもらいたいです。昨年から苦しんでいる人が多いと思うので、音楽で一人でも救ってほしい」とレコード会社の方にお伝えしたんですね。それをメンバーの皆さんが読んでくれたらしく、「出ます」と。めちゃくちゃ嬉しかったです。

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――福島さんが音楽に救われた原体験なんですね。

福島 自分の思いが入っていないものって観ている人にバレるじゃないですか。結局自分が感動したものじゃないと伝わらない気がして。この曲のメッセージは時代が変わっても届くはずだという確信があり、メジャーデビュー20周年の節目に、初めてNHKのテレビに出てくれました。ケツメイシの皆さんからしたら、紅白に出ること自体がシャレだと思うんですけどね。

第72回NHK紅白歌合戦で、総合演出を務めた福島明さん。末端のスタッフに始まり、14年前から紅白に関わってきた

藤井 風「サプライズ出演」の真相

――今回の紅白の象徴といえば、藤井 風さんの「きらり」からの「燃えよ」サプライズ出演でした。全部持っていかれた感じが。

福島 藤井 風さんにはずっとアプローチしていたんです。サプライズ出演を提案したところ、わりと乗ってきてもらえて、岡山のご実家からYouTube風に中継していたと思わせて東京国際フォーラムに登場する……という演出につながりました。僕がこだわったのは、ワープした後の体の向き。カメラを服で隠した後に、1回カメラ目線で「こっち来なよ、おいでよ」っていう手の仕草を入れてもらったんです。「エンターテイナー・藤井 風」を演出できるんじゃないかということで提案したら、「いいですね」と。

――なるほど、細かいところですが大事ですね。

福島 ちょっとやりすぎにも思えるんですが、あのシーンは確信犯的に完全に演出されていないとだめなんです。“実は中継じゃなかった”という大嘘をついちゃっているので、カメラ目線でやり切ってもらう必要がありました。あの後のステージの流れは風さん本人のパワーそのものですね。司会や審査員の皆さんにとっても、本物のサプライズだったんですよ。日産スタジアムで行われた無観客生中継ライブに密着した「NHK MUSIC SPECIAL 藤井 風」を担当したチームへの信頼もあって、出演が実現しました。

――藤井 風さんが楽曲提供したMISIAさんの「Higher Love」でのコラボレーションも圧巻でした。

福島 あの最後のコラボレーションを実現できたことは大きかったです。音楽純度が高い番組を目指していたので、直球で本格派が対峙するあの感じが紅白のあるべき姿と思えました。あの多幸感って音楽じゃないと作れない。あの空気、あの空間。他のジャンルでは絶対に出せないですね。ああいうシーンをもっと作りたいです。

藤井 風ツイッターアカウントより

――紅白の台本は福島さんが全体を見ているんですか?

福島 そうですね。だいたい作家さんと僕で書いて。第4稿まで出しました。

――これ、放送時間4時間以上ともなると、電話帳みたいに分厚いですね。

福島 一生懸命書いてはいるんですけど、紅白の歌以外のところって、トイレタイムというか基本的に誰もまじめに聞いていないと思って書いてます(笑)。あくまでも歌までの流れを作る部分というか。今回はなるべくテンポよく進行することにこだわりました。本番中にどんどん削っていくんですけど、大泉さんも川口さんも、見事に対応してくれました。