紅白が「若者に媚びてる」はピンとこない
――たしかにどんな人が紅白を作っているのか、ほとんどの人が知ることなく観てますね。
福島 今回の紅白は「若者に媚びていた」みたいな論調の記事が多かったんですが、それだけは否定したくて。若者に媚びたら、あんな内容にはならないですし。
――というのは?
福島 たとえばドラクエ、エヴァ、鬼滅とかって若者だけの文化じゃないですよね? 「若者」って誰なんだろうという気がします。それに今、日本の音楽シーンはとても豊かです。なのに、特定の一部のファンだけが知っている文化になりがちで、もったいないと思います。本当はリアルタイムで流行している音楽を食わず嫌いせずに聴いたほうが人生楽しくなるんじゃないかなって、そういうアーティストを紅白出場歌手として紹介している感覚なんです。その結果を「若者に媚びてる」っていうのはピンとこないというか……。
2019年初出場時のKing Gnuなんかそうだと思うんですけど、「紅白で初めて聴いたけどめっちゃいい」って思ってもらえる場にしたくて。今回で言えば、BiSHやまふまふ、millennium parade × Belle(中村佳穂)のことを「こんなすごい人たちがいるんだ」と知ってもらうきっかけになればと思っていました。
――知らないアーティストが出てくることと「若者に媚びた」が、同義になっている人もいそうです。
福島 知らないから聴かないのは、もったいないと思います。僕も「シブヤノオト」という音楽番組のプロデューサーをやるまで、日本の音楽シーンをあんまり追いかけていない時期がありましたが、「今、こんなすごい人たちがいっぱいいるんだ」という発見がたくさんありました。
演歌を少なくしようなんて、さらさら思ってない
――演歌やおなじみの歌手が減って、視聴率が下がったのではないか、という批判もありました。
福島 演歌を少なくしようなんて、さらさら思ってないです。石川さゆりさん、坂本冬美さん、細川たかしさん、天童よしみさん……挙げるとキリがないですが、生で聴いたらあの歌声、やばくないですか? 唯一無二のパワーの持ち主で、ああいう本格派の皆さんがいるから、冒険してドラクエやエヴァンゲリオンのコーナーができるんですよ。
紅白が紅白である理由というか、「あの曲がないと紅白じゃないよな」という聴かずにはいられない曲はやっぱり何曲かあるんです。それはかつて北島三郎さんの「まつり」であって、今なら「夜桜お七」や「津軽海峡・冬景色」、「天城越え」のような。
勝手な推測ですけど、石川さゆりさんは初めてお客さんの前で歌ったときの「津軽海峡・冬景色」の感覚を忘れていないと思うんです。違う節をつけて歌ったり、形を変えて歌ったりしないじゃないですか。それほどその歌を大切にしていて、だから毎回新鮮に感じるし、古びない。何万回歌ったとしても、1回目なんです。聴く人が惹きつけられて、「いい曲だな」と思わせるパワーを持っている。そういうアーティストにはいてもらわないと困るんです。