現在転出が増えている理由は、都心の地価高騰と…
そして今般、東京への転入が減少し、転出が増えた現象をどうとらえればよいであろうか。原因のひとつとして考えられ、指摘されているのが、歴史は繰り返すで、都心の地価が高騰していることである。都内の新築マンション価格はうなぎ上り。一般庶民の年収の十数倍という天文学的な価格で売り出され、実際に完売しているのは、あきらかに低金利を背景とした投資家の跋扈(ばっこ)、国外マネーの参戦の結果だ。
転売を見越した業者買い、そして個人金融資産が一方的に偏在している60代以上の富裕層による節税対策がなせる業である。メディアで説明される、「パワーカップルが増えて…」などというのはいかにも取り繕った表面的な事象で、パワーカップルがこぞってマンションを買うことでマーケットが支えられるようなものではそもそもない。
つまり、もう住宅を買うことをあきらめた人たちが郊外に散ったという説である。たしかに東京を取り囲む神奈川、埼玉、千葉の3県に茨城を含め人口の社会増が目立っている。だが、夫婦共働きをやめた訳ではない世の中で、これだけで事象を説明するにはやや無理がありそうだ。
理由のもうひとつが、コロナ禍である。コロナで職を失った人たちが、東京の高い家賃に耐えきれず、実家に舞い戻ったなどというものである。これは確かに一定数存在する。地方からやってきた一部の学生も含め、東京生活に見切りをつけていったん郊外にしりぞく、親元に身を寄せるなどの緊急避難をしたというケースは、私のまわりだけでも聞く話である。
知能労働が増えた今、働き方にも変化が
だが、今回の現象でやはり注目すべきは、ライフスタイルに変化の兆しが表れ始めたことであろう。中小企業ではまだまだオフィスに通勤して働くことを求める企業が大半であるが、大企業の一部ではすでにコロナ後も、リモートワークを働き方の主軸にすることを発表し、都心のオフィスを縮小する動きが顕著になっている。週1回、あるいは月2、3回の出勤のみで、通常は在宅またはコワーキング施設などで働くという勤務形態を推奨する企業が増えているのである。
考えてもみれば、オフィスという一つのハコに皆が集まって決められた時間、たとえば朝9時から夕方5時までといった時間枠の中で働くことを求めるのは、工場労働による生産を行うことが主軸の企業が世の中の大多数を占めていた時代の働き方の名残である。
現代は知能労働が中心となり、情報通信端末などを駆使して、企画立案や開発を行う仕事が主流になっている。ルーティンワークはその多くがITなどに代用され始めた。そして、皆が足並み揃えて同じ時間同じ場所を共用して働く、工場型の働き方は令和の時代の働き方にそぐわなくなっていることに、実はコロナ禍を通して多くの企業、従業員が気付き始めている。