「今回とくに、小説だからこそできるアクションシーンの描写にこだわりました。小説では極端なスローモーションから無限大のアップまで、時間の流れを好きなようにコントロールできるのが面白い」
2012年に昆虫SFバイオレンス小説『絶対服従者(ワーカー)』で読者の度肝を抜いた鬼才が、SFハードボイルド『ブレイン・ドレイン』を上梓した。犯罪性向をもつ脳と選別された“欠落者”が人工島に隔離された近未来社会――島で凶悪犯と暮らす主人公のセイは、ヒトが動くときに意識以前に生じる準備電位を感知できる。わずか先の未来を読みとれる特殊能力を活かし、命がけの人捜しに奔走する。
「小説はホラを吹くものだと思っていて、そのための科学的根拠として準備電位の話は使えるなと(笑)。『ベヨネッタ』等のアクションゲームが好きなのですが、相手の動きがスローで見えるコマンドが面白くって。ゲーム的な発想とプロレス好きが高じてアイデアがどんどん広がっていった」
人間の邪悪性は脳科学でどこまで解明できるのか、鮮烈なテーマが立ち上がる。
「前作で悪役の掘り下げが弱かったという課題があって、ガチガチの悪を描きたいという気持ちが爆発した。大量殺人者の資料をいろいろ読みましたが、苛酷な自然を生き抜いてきたヒトという種の中で、なぜ邪悪な人々は自然淘汰されずに残っているのか? そこには意味があるのか。物語で踏み込んでみたかった」
悪人達の人物造形は意外なところにヒントがあった。
「20代の頃、関西でも小劇場ブームで、劇団☆新感線の舞台をよく観ていたんです。古田新太のあの歌舞伎的な悪役のかっこよさといったらもう! 当時は自分でも芝居をやっていて、脚本・演出・音楽・出演を全部やるという無謀なことを……相当こじらせてましたね(笑)。本番前日に舞台監督の不手際で照明さんがいなくなるというトラブルもありました。文章描写で光の使い方や色の加減に異常にこだわっているのは、自分がやりたいことを舞台で追求できなかった怨念なのかもしれません」
物語構築のスタイルで一番影響を受けたのは菊地秀行だという。
「高校時代に『エイリアン』シリーズにはまって、これなら俺も書けると、大きな勘違いをしたのが創作の出発点。俺は他のどんなメディアよりも小説が面白いと思ってるんです。読み始めたら止まらない一気に没入する体験を作り出したい」
犯罪性向をもつ邪悪な「欠落者」を選別できるようになった近未来社会。ブレイン・ドレインと呼ばれる特殊な脳をもつ主人公のセイもまた、「欠落者」として人工島に隔離されていた。能力を活かして凶悪犯を狩るセイに、ある女を捜せという密命が持ち込まれる。圧巻のノンストップ・エンターテインメント。