『ゴッドタン』ではこのほかにも、劇団ひとりが企画の趣旨から外れて新たな面白さを生み出すことが少なくない。たとえば、現在、毎年暮れに特番として放送されている「マジ歌選手権」は、芸人たちが自作した曲を文字どおりマジになって歌うのが本来の趣旨だが、ひとりだけは歌は二の次で、赤ちゃんや原始人、さらには芸能人など毎回さまざまなキャラクターに特殊メイクで扮して登場するのがお約束だ(ちなみに『浅草キッド』では柳楽優弥が現在のたけしを特殊メイクで演じている)。
2000年にコンビを解散、ピン芸人に
「ちょっとした不成立」から企画が化ける、というのは劇団ひとりを語る上で重要なキーワードかもしれない。ベストセラーとなった小説第1作『陰日向に咲く』(2006年)も、もともとは笑いがメインのパロディ本として依頼された。しかし、考えるうちに“架空の雑誌に連載される架空の人物のリレーエッセイ”という設定が思い浮かび、それで原稿を書いたところ、期せずして小説になっていたという(『編集会議』2006年7月号)。
劇団ひとりの小説は、彼が登場人物になりきって書いているように読める。もともと「スープレックス」というコンビで漫才をやっていたころから、さまざまなキャラクターに扮してきた。2000年にコンビを解散してピンになると、そこに少し芝居色を強め、芸名にも「劇団」を冠した。小説もその延長線上にあったといえる。
「こみあげてくる感情が好き」
表現方法は変わっても、その根本には一貫した感情があるという。これについてはかつて対談でこんなことを語っていた。
《僕、こみあげてくる感情が好きなんです。ネタを書くときも、本を書くときも、最終的に気持ちいいのはこみあげてくる瞬間。(中略)今日もタクシーに乗っていて、突然「アイツ、バカだよな」っていうセリフがこみあげてきたんです。(中略)「アイツ」って誰だかわからないけど、突然。それで、「アイツ、バカだけど、でも、オレたちあんなバカになりたかったんだよな……」みたいな(笑い)。設定もわからないのに。(中略)そうしたらジーンと来ちゃって、泣きそうになって》(『週刊ポスト』2008年9月5日号)