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 こみあげてくる感情をときに過剰なまでに表現へと昇華してしまうところにこそ、劇団ひとりの真髄がある。その才能はいまや誰もが認めるところだろう。昔だったら、それこそビートたけしのように何本も冠番組を抱えて芸能界のトップに君臨していてもおかしくないはずだ。しかし、そうなっていないことに、同年代の人間としてはややもどかしさも感じてしまう。

 たしかにいまでは、一人の強烈な個性が番組を引っ張っていくスタイルが、一部のベテランを除き、もはや視聴者に受け入れられにくくなりつつある。彼の鬼才ぶりを発揮できる機会が、地上波のテレビでは限られてくるのは仕方がないのかもしれない。

©文藝春秋

 そんな状況のなか、一昨年、『日経エンタテインメント!』誌が全国1000人の男女を対象としたお笑い芸人人気調査の「1番好きな芸人」ランキングで、劇団ひとりは前年20位圏外だったのが一気にタモリと並ぶ3位に入った。その理由の一つには、前年の2019年に、小学生たちと出演する『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』がレギュラー化され、幅広い層から人気を得たことがあるようだ。

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テレビで下ネタが言いにくくなるのは本意ではない

 ただ、本人はランクインを受けて、《そうやって好感度が上がって、来年もランキングに入りたいという気持ちが芽生えると、深夜番組での動きが鈍くなってしまいそうで…》と、笑いを取るか好感度を取るかでの葛藤もうかがわせた(『日経エンタテインメント!』2020年9月号)。私生活では3児の父親でもある。それでも、テレビで下ネタが言いにくくなるのは本意ではないので、ファミリー層向けの番組でも親としての顔を積極的には見せないようにするなどして、バランスを取っているという。

 今回の『浅草キッド』が、テレビドラマでも、劇場公開の映画でもなく、ネット配信という形になったのも、時代を感じさせる。ただ、最先端のメディアで手がけた作品の舞台が、50年前の寂れた浅草というのが興味深い。

 Netflixの映画と浅草のストリップ劇場、下ネタありの深夜番組とゴールデンタイムのファミリー向け番組、さらに芸人と小説家と映画監督と、劇団ひとりはさまざまな際(きわ)を絶妙なバランスで渡り歩く。それでも、ビートたけしが映画監督としては北野武を名乗るように、芸名と本名を使い分けることはしない。彼にとってはやはり、すべての活動をひっくるめて「劇団ひとり」なのだろう。