尿瓶を使うか否か、どう使うか、という問題
私の退院が噂されたりする頃、そうした噂らしきものが流されたりするのは、 私にとっても面白くない。ナースがそれほど悩んでいるのは何だろうか。
私は、夜遅く、ナースが話を切り出し易い雰囲気を作ってみた。それほど気を使う間もなく、彼女は切り出した。
聞けば、(はっきり言えば)別にどうということもない話であった。とはいえ、なんでもない話ではなかった。人によっては、かなり気分を害する話であり、それは他人(ひと)の気分を害さずに話すのは、かなりむつかしい事柄であった。
ズバリといえば、オシッコのことである。これから、私が自宅に帰れるとして、その前に(ナースに言わせれば病院にいるうちに)解決すべき問題ではないだろうか。
なるほど、と私は思った。きかされると、それはいまのうちに解決すべきことに思われた。家人に相談する必要もあったが、その前にだ。
ナースの話では、方法は二つあって、オシッコをしたいときに尿瓶を使うのが、その一方法である。貴兄は尿瓶を使用しても平気であるかどうか。
平気である、と考えて、うっと飲み込んだ。私はひどく神経質でありながら、そうもいえない一面もある。むかし、独身の時にある下宿屋にいたころ、尿瓶を使用していたことがある。何故なら、下宿人が多いので、食後、手洗いが混んで、困ったからである。
私はナースがいやがると思って、かなり乱暴な答え方をしたが、彼女は(それなら話が早い)と言わんばかりに、安心した様子だった。
「それなら、話が早いわよ。あなた、尿瓶は布団の外でするんですか、それとも中側......」
「まあ、外ですよ。立ったまましますよ。人によって使い方がちがうでしょうが」
「それなら、話が早い」