「娘が自殺したのは、私のせいなんです!」
紗季さんの母親、有希さん(仮名)が初めて私のところへ訪れたのは、娘の最期から2週目に入ってからでした。起きたことを一通り説明したあと、自らに言い聞かせるかのように繰り返したのです。
「違うんです! 違うんです!」
ぎゅっと握られた両手のひらと、力のこもった瞳がそこにありました。どうやら学校でのいじめ調査は、母親である有希さんにとって思いもよらない方向に展開してしまったようです。
「娘が自殺したのは、私のせいなんです!」
「次の時に大事なものを持ってきます」
こう言い残し、初回カウンセリングを終えて寂しい家へと帰っていったのでした。
1週間後、有希さんは大きめの封筒を携えてやってきました。
「娘の引き出しの奥から出てきたノートです」
促されてノートをめくると、亡くなった紗季さんの短い走り書きがありました。日記であることがすぐにわかりました。記された時刻は、いずれも深夜2時前後を示しています。
親思いの優しい子だった
(日記:5月)
母の日、サプライズでカーネーション。笑ってる。サイコー!!
(日記:6月)
大丈夫だよ。私が守ってあげるね。
大好き。大スキ。だーいすき!!
(日記:7月)
よくわからんけど、ちょっと変?? 私どうなるのかな。
なんとかするのだ。頑張るぞー!
目を通している私に、有希さんは嗄らした声をかけてきました。
有希 紗季は、親思いの優しい子でした。私がつらそうにしているとすぐに傍にきて、面白い話をしてくれたんです。
――紗季さんはこんなに母親のことが好きだったんですね。
有希 本当は違うんじゃないかと思います。
――本当は違う……?
有希 きっと私のことを憎んでいたんです。
――もしかして、ですが……。夫婦関係はいかがでしたか?
有希 はい、先生の想像する通りです。
――暴力を振るわれていたんですね。
有希 はい……。
――紗季さんはその仲裁に入ったり、悲しむ母親を慰めようとしたり……。
有希 ……はい(うなずき、涙がこぼれる)。
(日記:8月)
嘘つき……