紗季さん家族の秘密を学校が知り、児相の適切な介入へ繋げることは、問題行動を呈さない生徒を前にしては、とても期待できません。世代を遡り、母親の有希さんの子ども時代に原因を見つけることなど、「妻への暴力」が黙認された時代には不可能でした。
しあわせな時間を生きてほしい
有希 私は生きていていいんでしょうか?
――お母さんにできることがあると思います。
有希 えっ……。
――紗季さんが身をもって教えようとしたこと、それはDVの連鎖をここで止めることではないでしょうか。
有希 連鎖を止める?
――自分の感情を大切にし、服従しない、しあわせな時間を生きてほしいと思います。
有希 それって、紗季が私に願っていたこと……?
――その通りですね。学校には話しますか?
有希 いいえ、話しません。
――わかりました。
有希 このノート、託してもいいですか? 預かってもらえますか?
――はい。
小中高校生の自殺者は、学校が把握できていない事案が少なくない
有希さんとのカウンセリングはこの2回で終わります。
中学生の「いじめ自殺」はセンセーショナルに取り上げられ、世の人々から大きな関心を向けられます。現にいじめが主因であると認定された自殺は起きています。多数の要因が複雑に絡み合い、一因や契機としていじめが関与していると考えられる事案もあるでしょう。しかし、それ以上に多くの子どもたちが自ら命を絶つ時代になっているのです。
2020年度文科省の報告では、小中高生の自殺は統計調査を始めた1974年以降最多の415人でした。小学生が7人(前年比3人増)、中学生が103人(同12人増)、高校生が305人(同83人増)です。特に女子高校生は131人で、前年度の63人から倍以上も増えました。警察庁の同年度の統計では、小中高校生の自殺者は507人で文科省の報告より92人多かったことは、学校が把握できていない事案が少なくないことを物語ります。
付記 本稿で取り上げる事例は、可能な限りご本人の了承を得て、かつ必要に応じて個人が特定されないよう小修正を加えて執筆するものです。