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「金メダルはどこいった?」一時は盗難騒ぎも…日本初の冬季五輪金・笠谷幸生のメダルが人口3000人の町の金庫に眠っている理由

2022/02/07
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「飛んだ、決まった!見事なジャンプ」

 ライバルの外国人選手も金野、青地を上回れないなか、笠谷に順番が回る。その時、横風が出て来てスタートを待たされた。しばらくして笠谷が落ち着いて滑り出す。

「さあ、笠谷、金メダルへのジャンプ!」

「飛んだ、決まった!見事なジャンプ」

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 NHKの北出清五郎アナウンサーの名台詞とともにきれいなテレマーク姿勢で着地した笠谷は金メダル、銀の今野、銅の青地とともに表彰台を独占した。

 初の冬季オリンピックを誘致した札幌市民だけでなくテレビの前の日本国中の人たちが飛び上がって喜んだ。

 会場も大騒ぎとなるなか、4位に終わった最大のライバル、ノルウェーのインゴルフ・モルクが人波にもまれながら笠谷を担ぎ上げ、肩車して称えた。長く歴史に残る感動のシーンとなった。表彰台の3人は「日の丸飛行隊」として新聞各紙の朝刊一面を飾った。

5日後、90メートル級ジャンプでまさかの「敗北者」に

 それから5日後の11日、90メートル級(現ラージヒル=LH)ジャンプが行われる大倉山ジャンプ競技場の観衆は4万人を超えていた。

 国民の期待は再び「日の丸飛行隊」に向けられた。だが笠谷をはじめ、日本勢は力を出し切れなかった。笠谷が7位、ほかの3人は10位以下に沈んだ。

 記録映画『札幌オリンピック』のメガホンをとった篠田正浩監督はこの時の笠谷を追い、肩を落とした背中を映し出した。日本初の冬季五輪金メダリストは重圧に負け「敗北者」になった。

 明暗を分けた2つのジャンプ場のうち、ワールドカップが開かれているLHの大倉山ジャンプ競技場は観光地として夏場は専用リフトでスタート地点まで行くことができる。

ワールドカップなどが開かれている札幌市の大倉山ジャンプ競技場
札幌オリンピックミュージアム正面入り口

 着地地点の近くに2017年2月、札幌オリンピックミュージアムが開館した。それまであった札幌ウィンタースポーツミュージアムを大幅にリニューアルしたもので、札幌オリンピック関連の資料を展示しているほか、最新の機器を導入して、スキー・ジャンプのテイクオフを体験したり、クロスカントリースキーの模擬体験、アイスホッケーのGK体験など、大人も子どもも楽しめる施設に生まれ変わった。