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交通手段をめぐる、帰国者たちの葛藤

「正直者が馬鹿を見ると思いました」

 そう語るのはビジネスで香港を訪れていたNさんだ。

「当初は公共交通機関を使わずに、レンタカーやハイヤー、帰国者専用車両などで帰ろうと思いましたが、あまりにもコストが高い。空港のインフォメーションで確認すると、あくまで“要請”であるため、ノーチェック・ノーペナルティということもわかりました。要請ということは、募金と一緒ですよね。協力してもいいし、しなくてもいい。飲食店は要請を守ると協力金をもらえるでしょうが、我々は守ると交通費で2~3万円が飛んでいく。経費で落ちるとは限りません。空港内で、ものすごく悩みましたよ」

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 NHKによる「オミクロン株の水際対策 帰国者専用バスなど利用低調 周知必要」(12月18日)という記事内では、帰国者や入国者専用の鉄道やバスの利用が低調であることが付記されている。

 実を言うと、私も迷った。要請に従ったほうがいいと頭ではわかっているはずなのに、どうして迷うのか。どうして迷うような状況になっているのか。

 スカイライナーの帰国者専用車両に乗車する際、予約したハイヤーの車両番号、運転手名(とその携帯番号)を明記する必要がある。窓口のスタッフに、「そのことを知らずに購入しようとした人が、チケット窓口でしどろもどろになったりすることはないですか?」と聞くと、「結構います」と苦笑いを浮かべていた。そして、「やっぱり大丈夫です」などと言い、どこかへ消えていくという。1日の帰国者専用車両の利用者は、20人ほどだそうだ。

京成スカイライナー帰国者専用車両の申込書。ハイヤーの情報記入欄がある

 筆者が成田空港~上野~自宅まで要した金額は17500円だった(スカイライナー4500円、ハイヤー13000円)。現地出国時のPCR検査、成田到着時のPCR検査、隔離施設退所のためのPCR検査……1週間で3度の陰性結果を受けた。そういった帰国者のうち、一体どれくらいの人が結構な費用を払って、最後まで公共交通機関を使わずに家に帰ってくれるんだろうか。

ガチャ化するコロナ対策

 水際で対応している職員やスタッフは懸命だ。一方で、帰国してみると、空港や隔離施設から水がぽたぽたと漏れている音が聞こえてくる。

「隔離ガチャ」を体験したつもりだったが、コロナにまつわる対応の多くが、実は“ガチャ化”しているのではないか――そう感じるのは気のせいか。帰国時の隔離だけではない。協力金の恩恵に与れる業態とそうではない業態。自宅待機を余儀なくされる人とそうではない人。濃厚接触者になる人とそうではない人。そして、厄介なのはどうやら運否天賦ではなく、人為によって意図的に確変をもたらすことができてしまうという現状だろう。

 平等な対応は期待していない。だが、正直者がハズレを引くことがないよう、公平な対応をお願いしたい。