ストーカー被害に遭っている間、被害者の心は休まる暇がない。いつどこで加害者が現れるかわからない恐怖に加え、警察や弁護士との度重なるやりとりに消耗し、「一刻も早く終わらせたい」と考える人は多いだろう。しかし、一度「終わった」と安心したのに、ある日突然相手から再び連絡が来るようになったとしたら、どれほど恐ろしいことであろうか。

 ここでは、小豆島に移住した作家の内澤旬子さんが、2年以上に及んだ元交際相手のストーカーとの戦いの全容をまとめた著書『ストーカーとの七〇〇日戦争』から一部を抜粋。示談を交わし、やっと平穏な日常が戻ってくると思った矢先の、絶望的なできごとを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

©文藝春秋

◆◆◆

ADVERTISEMENT

 そんなある日、I弁護士(編集部注:著者側の代理人)からメールが届いた。

〈Aから連絡がありました。内澤さんと連絡を取りたい旨を伝えてほしい、直接連絡を取ることは原則として禁止ということになっているので、私からまず打診してほしいということのようです。連絡をすることの諾否につきましては、私までお知らせください。〉

 は? 意味が分からず何度も文面を見直した。「原則として禁止」⁇ 「ということになっている」??? 「打診してほしい」???? 疑問符が無限大に頭の中で増殖する。なんだこの他人事感満載のメールは。

 何故こんなに易々と、接触を禁ずるための示談をまとめた弁護士本人が、接触を仲介するような連絡をしてくるのだろうか。仕事は示談を締結するまで、ということなのか?

 「原則」以外だったら連絡しても良いなどという条項はなかったはずだし、そんな例外があることなんか聞いていない。原則もクソもあるわけないだろう。二度と絶対に会いたくないから、怖いから、示談をしたのに。

 必死の思いで建てたダムに、施工業者自らに穴をあけられたような気分だ。しかもI弁護士は、相手方の弁護士でもない。自分の安全を確保するために、私自身が雇った弁護士のはずなのだが。穿うがたれた穴から噴き出す水が、ダムの壁に亀裂を走らせる。