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研鑽を見せる舞台がまた五輪というのは感慨深い

――さて、いよいよ初戦のスウェーデン戦を迎えますが、スウェーデンもロコ・ソラーレも、氷上の4選手が平昌と同じメンバーという対戦になりました。

本橋 お互いの道のり、研鑽を見せる舞台がまた五輪というのは感慨深いですよね。初戦なのでアイスの状況を探り探りという感じになると思いますが、面白いゲームになると思います。

――平昌の金メダリストであるスウェーデンのスキップ、アンナ・ハッセルボリ選手は、この4年で母になって戻ってきましたね。

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本橋 私が初めて出たオリンピックは2006年のトリノなんですけれど、そこで優勝したのはアネッテ・ノルベリ選手率いるスウェーデンでした。チーム・ノルベリは4年後のバンクーバー大会にメンバー全員が母になって戻って来て、また金メダル。チームは違いますが、平昌でもスウェーデンが金メダル。私が出た3度の五輪は全部、スウェーデンが勝っているんですよ。母としての人生とアスリートとしての人生をうまくクロスさせて、コントロールする力に長けていると3度とも痛感しました。

前回大会で金メダルだったスウェーデンチーム ©JMPA

それぞれのペースでアイスに戻ってくる選手たち

――日本でも本橋さんをはじめ、母となってアイスに戻ってくる選手も増えました。

本橋 日本とスウェーデンでは社会がどうサポートしてくれるのかといった制度も異なるので単純に比較はできませんが、出産という人生でも最大級の出来事を経験すると、4年でアイスに戻れても、五輪の舞台にはとてもじゃないけれど戻れないはずなんです。でもそれを実現できる彼女たち、その周辺の方々も含め、心身が本当に強くて健康なんだなと思います。

――その一方で、市川美余さんや金村(旧姓:目黒)萌絵さんなど、かつてのトップ選手が競技には一度、区切りをつけて育児に専念したのちに解説者としてカーリングに戻ってきてくれるケースもあります。

本橋 人生の進め方は本当に人それぞれですので、どの選択も正解なのですが、美余ちゃんも萌絵ちゃんもカーリングに携わってくれているのは嬉しいですし、心強く思います。その上で、できればそういう風に多くの選手がカーリングといい距離感でいてほしいですね。

――いい距離感とは?

本橋 私自身が結婚した時、出産した時に感じたのですが、やっぱり一度、距離ができてしまうと戻るのにエネルギーが必要だったりするんです。ある程度、子どもが成長したからそろそろリンクに顔出してみようかなと思っても、迷惑なんじゃないだろうか、居場所があるだろうかと余計な心配をしてしまう。

 だから軸足をそれぞれの家庭に置きながら、片足ぶんだけでいいので各自のペースでカーリングに接していてくれれば、逆に家庭や育児で疲れた時にカーリングが逃げ場になることもある。それは私が妻となって母となってカーリングに救われて気づいたことでもありました。今後はより多くの選手が、それぞれのペースで柔軟性を持ちながらカーリングに長期で携わってくれること。それが私のささやかな願いです。

本橋麻里(もとはし・まり)

 

 1986年6月10日北海道北見市常呂町生まれ。12歳でカーリングをはじめ、19歳でチーム青森に加入。2006年トリノ五輪、2010年バンクーバー五輪に出場。2010年に「ロコ・ソラーレ」を結成し、結婚、出産を経て2018年に平昌五輪に出場し、日本カーリング史上初のメダルを獲得した。

 

 現在は2児の母でありながら一般社団法人ロコ・ソラーレの代表理事を務め、セカンドチーム「ロコ・ステラ」の選手としても活動している。著書に『0から1をつくる 地元で見つけた、世界での勝ち方』(講談社現代新書)がある。

 

ロコ・ソラーレHP:https://locosolare.jp/

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。