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捨て身で向かっていく「虎」への評価

 中田組長は2019年8月、ミニバイクに乗車し神戸の弘道会拠点を銃撃、組員に右腕切断の大怪我を負わせた実行犯として逮捕されている。組織のトップがヒットマンになるのは異例中の異例で、強いメッセージ性を感じさせる。銃器の使用で発射罪にも問われ、軽くても10年~15年程度の長期刑を覚悟せねばならない。

 この事件の報復は抗争のセオリーどおり間髪入れずに履行されている。カメラマンに扮装した弘道会のヒットマンが取材に紛れ込み、山健組組員2人を射殺したのだ。にもかかわらず山健組が山口組に戻った……復帰の上辺だけを見れば、殺し殺された当事者同士が恩讐を越えて和解、古巣の山口組が度量を発揮し、敵側の最前線部隊に好待遇を与え、帰参を許した美談にもとれる。六代目山口組・髙山清司若頭も自ら襲撃の実行役となった中田組長を認めているだろう。

写真はイメージです ©iStock.com

「山口組の髙山若頭は、『ヤクザは力』と考えている。捨て身で向かっていった人間を高く評価する」(六代目山口組と友好関係にある独立組織幹部)

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 日本最大の巨大暴力団である山口組を指揮する髙山若頭のプライオリティーは暴力である。暴力団は1パーセントに満たない武闘派と、虎の威を借り一般人を脅す99パーセントの狐で構成されている。虎を優遇せずに暴力団は存続できない。

電撃帰参は中田組長の井上組長への「報復」か

 だが、山健組の帰参は山口組らしい政治的寝技でもある。他団体の内紛に乗じて一方を支援、代理戦争に持ち込んで勢力を拡大するのは、山口組の伝統的な組織破壊工作だ。

 元山健組の人間はこう説明する。

「髙山若頭が府中刑務所を出所する日(2019年10月)が近づき、立て続けに暴力事件が起きても、神戸山口組は反撃できなかった。トップの井上邦雄組長は、かつて自分が率いてきた山健組を実行部隊にすると約束していたので、後継者の中田組長に『一刻も早く報復しろ』とプレッシャーをかけ続けていた」

 その重圧に、中田組長は自ら拳銃を握って返答した。捨て身の抗議は、いじめの報復やパワハラの腹いせに自殺するケースと似ている。山健組の復帰も井上組長へのさらなる報復と考えれば腑に落ちる。自らの若い衆だった山健組に裏切られ、御輿の担ぎ手に離脱されたばかりか、憎き六代目山口組に出戻られれば、井上組長は立つ瀬がない。

 六代目山口組にすれば、今回の復帰劇は実質的な戦後処理だろう。司忍六代目組長への裏切りは決して許せないが、暴対法による「抗争特定指定」を受け、本部や傘下団体の主要な事務所が使用禁止となり、定例会や組の行事も満足にできない。六代目山口組も本音を言えば、いち早く抗争を終え日常に復帰したい。司六代目は2022年の1月に80歳となるし(2021年12月、原稿執筆当時)、髙山若頭も後期高齢者目前である。悠長に幕引きを待つ時間はあまりない。