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SNSを駆使した、ヤクザたちの情報戦

 分裂抗争では実話誌のみならず、SNSを駆使した情報攪乱も行われた。実話誌などはネタには飛びついても、好き勝手には動かせない。その点、SNSなら100パーセント自陣営に都合よい内容を書ける。スマホからアクセスできて簡単だし、速報性では既存メディアを圧倒している。

 SNS部隊が巧みだったのも神戸山口組だった。分裂抗争はタブーを犯した側が自己主張の場を求めるので、離脱派が情報戦を仕掛けようと動くのだ。

写真はイメージです ©iStock.com

 それでもネット番長はヤクザとして恥ずかしいという意識はあったようで、工作員はあくまでカタギ、もしくは単に好奇心で始めた現役組長を自称した。実際、氏名や組織名を明らかにした者は誰一人としていなかった。

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 山口組は昭和に発刊していた機関誌をタブロイド判で再刊しており、『山口組新報』として傘下団体に配布している。分裂直後の『山口組新報』では直系組長たちが離脱組を謀反者と厳しく非難した。しかし、これらは概してしらじらしい。体面があるので、品性に欠ける暴露もできない。

SNSによるプロパガンダは続くのか

 SNSは既存の当事者発信とは明らかに違った。私自身、雨後の筍のように誕生するヤクザ関連アカウントを眺めながら、その革新性に勘違いさせられた。ところがSNSは速報性を重視するためチェック機能が働かず、次第にやりすぎが目立った。自身では騙したつもりでも、発信者の内面を映し出していた。現役ヤクザの距離が近いと類推されるアカウントは暴力団の独善さそのままに、自分たちの不義理を棚に上げて一方的に相手陣営をなじった。虚偽情報が氾濫するのを目の当たりにして、ようやくSNSの発信がほぼ信用できないと理解した。

 情報戦による場外乱闘は、今後も続くだろう。何しろ割がいいし、金もかからない。抗争事件と違って組員の自己犠牲も必要ない。それに暴力で相手を殲滅しようと強風を吹かせ続ければ、相手は決して鎧を脱がない。

 分裂抗争は内政干渉になるため、他団体が仲裁しにくいが、六代目山口組がその気になればすぐにでも抗争にピリオドが打てる。抗争終結宣言を打診すれば、神戸側も応じるだろう。そもそも暴力団に対する世間の風当たりを考えれば、本来、身内で殺し合っている場合ではなかった。

 再び強硬姿勢に転じて抗争事件を起こすのか、プロパガンダを続けるのか。山口組の動向を注目したい。

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