実話誌に掲載された帰参幹部のインタビュー
ただし、手にしている武器は情報だ。
マスコミを使って相手を揺さぶる戦術は、もともと神戸山口組の十八番だった。分裂直後にも神戸山口組の幹部が匿名でインタビューに応じ、六代目山口組を徹底批判してその非をなじった。
対する六代目山口組も『週刊新潮』に自分たちの言い分をほぼそのまま掲載させたり、『週刊SPA!』で見え見えの情報操作をしていたが、あれだけ露骨だと逆効果だったろう。情報操作においては、神戸山口組ほど巧みではなかった。
マスコミでの情報攪乱は、神戸山口組の分裂時にもえげつなく発揮された。山健組などから離脱した一派は任侠団体山口組(現・絆會)を立ち上げ、記者会見を挙行、井上組長を激しくなじった。
神戸山口組もすぐさま応戦した。カウンターとなったのは、毎週山口組の記事を掲載する『週刊実話』『アサヒ芸能』『週刊大衆』の実話系週刊誌だった。もちろんマスコミが飛びつくよう餌は与えた。神戸側は幹部の古川組・古川恵一組長を登場させ、実名インタビューに応じたのである。
2021年11月には六代目山口組側が実話系週刊誌3誌を使った。山健組と宅見組から脱退し、六代目山口組に帰参した幹部のインタビューを同時提供したのだ。
「六代目側から『もう勝負はハッキリついているのだし、早くこの喧嘩を終わらせるために力を貸してくれ』と説得されたことが、きっかけでした。ただ、自分でもとっくに潮時を感じていました」(元宅見組幹部のA氏、『週刊実話』2021年11月11日号)
末端組員を攪乱するメディア戦
昭和の暴力団抗争なら、帰参の手土産として古巣の組長の命を殺ってこいと言われただろう。令和ではそれが週刊誌上での元親分批判となった。六代目山口組側もさすがに罵詈雑言を強要してはいなかった。何でもありの暴力団抗争とはいえ陰湿な印象は拭えず、男伊達の稼業だけにやりすぎればイメージが悪い。
メディアでの情報操作が組員の攪乱に使えるのは暴力団組織の特性による。暴力団は極端なピラミッド型組織で、配下に細かな経緯を伝えない。すべてトップダウンで決まり、事後に結果だけが通達されるため、末端組員たちは慢性的に情報不足に悩まされている。事件を踏んだ際、情報が漏洩して逮捕者を出してはならないという特殊事情もあり、質問をする機会も与えられない。