そもそも、使用するワクチンを事前に見せろと患者が病院側に要求してくること自体が異例だ。倉澤さんによると、その時点で「この患者はヤバい」と受付がざわついたのだという。
「しかも、その男性は『母国ではこのワクチンを使っている。僕が個人輸入するので、それを打ってほしい』と要求してきたんです。院長に確認すると、『私の判断で決めたワクチンを打ちたくないと言うのなら、お断りしてください』と言われました。そこで、なるべく穏便にそういうことはできませんと伝えたのですが……。
すると、男性は『僕は患者で、あなた方は接種する側なんだから、普通は患者の言うことを聞くよね。僕は大使館の人間だ。僕の指示に従わないなら裁判に訴える』と言って、私のフルネームを聞いてきたんです。もう怖くて泣きそうになりましたよ」
2年後、まさかの再会が
話はこれだけでは終わらなかった。その2年後、外国人の女性が「子どもを幼稚園に入れるから、健康診断をして診断書を書いてほしい」と言ってクリニックにやってきたのだという。
倉澤さんのクリニックでは診断書の作成に3000円かかる。それを説明して健康診断したのだが、会計しようとすると、女性が「お金は夫が管理しているので、夫を呼んでいいか」と言い出した。
「30分後に夫がやってきたのですが、見た瞬間びっくりしましたよ。ワクチンの予防接種でおかしな要求をしてきたあの外国人男性だったからです。嫌な予感がしたのですが、案の定、男性は3000円かかると聞くと『ぼったくりだ!』とゴネ始めました。なんで健康診断は保険診療にならないんだと怒り出したんです。
しかも、健康診断は身長や体重を測るもので、診察をして薬を出す通常の診療行為とは違うと説明すると、『じゃあなんでもいいから薬を出せ』と要求してきた。できませんと伝えると、『なぜ僕の言うことに従わないんだ。僕は大使館の人間だ。お前たちを訴える』と、2年前とまったく同じことを言い始めて……」
倉澤さんは「これまで多くのモンスター患者と接してきましたが、この外国人男性ほど面倒くさくてヤバい患者は見たことがありません。健康診断のときも、最後はクレジットカードが使えないことにクレームをつけられました」とため息をつく。
モンスター患者に頭を悩ませているのは街のクリニックだけではない。都内にある中規模の総合病院に勤務する看護師の立花結子さん(仮名、28歳)によると、総合病院は多くの診療科と病床をもつので、その分おかしな患者も多いのだという。