竹倉 たしかに、千手観音をラフにバーッと描くと、たぶん木になっちゃいますね。
みうら 僕も遮光器土偶には関心があって、出土した青森県の木造町(現つがる市)も訪ねました。そのとき驚いたことに、地元の人が遮光器土偶のことを「しゃこちゃん」と呼んで「ゆるキャラ」扱いしていたんです。『土偶を読む』の中にも、僕が造語した「ゆるキャラ」という言葉が何箇所か出てきますよね。
土偶=ゆるキャラである
竹倉 「ゆるキャラ」ってその地方の名物に顔をつけたものが多いですよね。「土偶の顔はクルミや栗の仮面だ」という仮説を立てたとき、自分たちが作って食べているものがキャラになっているという意味で、土偶と「ゆるキャラ」は同じだと思ったんです。フェスに駆り出されるところも似ています。そのことに気づいてから、私の研究がグッと進んだんです。
みうら そもそも「ゆるキャラ」というのは、その土地の特産品をいろいろ盛り込みすぎてゆるくなっていました。これは、八百万の神の発想からきているんじゃないかと前から思ってはいたのですが、竹倉さんはそれをさらに土偶と結びつけた。僕の心にグッとくるのは当然です。
竹倉 縄文時代というのは日本文化の根底にあって、後から仏教とかいろいろ入ってきますけど、結局800万のほうに全部吸収されていくような気がします。
みうら 日本人はどんなものにも目鼻をつけてキャラにするし、顔がついたものは大切にしなきゃならないという感覚が昔からありますね。
竹倉 日本では針供養とか筆供養とかもしますし、道具にさえ何かが宿っていると考えますしね。
みうら 祟りを怖がる傾向も、諸外国人より強いですものね。
竹倉 コロナ禍になって、日本人はちゃんとマスクをつけている人が多いですけど、あれも真面目な性格というだけでなく、魔よけとか呪術的な意味合いがあるように思えます。八百万のキャラがそこらじゅうに潜んでいて、常に見張られているわけですから。
みうら 今後はどんな研究を?
竹倉 次は「土偶を何に使ったのか?」というテーマで本を書こうと思っています。
みうらじゅんさん、竹倉史人さん「土偶はゆるキャラ!?」全文は、「文藝春秋」2022年3月号と「文藝春秋 電子版」に掲載しています。
土偶はゆるキャラ!?