自分と境遇の近い野球少年に思いを重ねる
・広島ドラフト1位の広陵・中村奨成捕手
・巨人ドラフト1位の中大・鍬原拓也投手
・オリックスドラフト4位の星槎国際・本田仁海投手
自分に境遇が近い選手は、どうしても応援したくなる心理は誰にでもある。出身地、出身校、年齢、はたまたプロ野球選手名鑑に載る好きな女性タレント等……。筆者は来年から似た境遇の上記3人を応援することを決めている。理由は僕と同じ“母子家庭”だからだ。
2010年から始まった、プロ野球ドラフト会議後のTBS特番「ドラフト緊急生特番!お母さんありがとう」は欠かさず視聴している。毎年のように一人は出てくる、母子家庭のドラフト候補生。お涙頂戴のテレビの演出なのは重々承知しているが、テレビの液晶画面がモザイク映像にみえるほど泣きに泣きまくっている。
女手一つ、昼夜問わず働いて「プロ野球選手」という壮大な夢を応援する母。グラウンドで汗水垂らし、夢を叶えるために猛練習に明け暮れる息子の物語――。母子家庭では野球道具一つ買うことも、プロ野球観戦に行くことも簡単なことではない。更に成長期の息子の食費が、遠征費が家計を圧迫する。
きっと、彼らは新しいグローブが欲しいのに、「愛着があるから」と自分にも嘘をつきガマンしているに違いない。金持ちの空気読めないチームメイトに、「お前のユニフォーム、短すぎて短ランじゃねーか!」とバカにされているに違いない。母親に忍び寄る、同じ職場のバツイチ男もいたのに違いない。ドラフト候補生になった途端に、全く関わってこなかった親戚が「わしが育てた!」とか言ってるに違いない。ほぼ妄想だが、きっとそうだ。
僕も彼らと同じ、母子家庭の野球少年だった。
父は川崎出身で大洋ホエールズファン。幼少期から川崎球場に通っていたそうで、「鯨援隊」の一員だと自慢していた。僕を球場に連れて行くときは、馴染みの面々に挨拶した後、「アイツらはちょっと過激だからさ」と笑い、少し離れた席に座り応援する。父は家にいるときとは違い、試合が白熱してくると口悪い野次っぷりに驚かされた。とにかく巨人が嫌い。とにかく中畑清が嫌い。まさか後にベイスターズの監督になるとは思ってもいなかったことでしょう。
しかし、いつしか幼き筆者が「一緒に行きたい」とせがんでも拒否される事が増えていった。お土産の「マリンくん」グッズもなくなった。でも、父が浜スタから帰ってくるまで待っていた。眠気まなこを擦りながら父に抱き付けば……優しい、それは優しい石鹸の香りがした。男臭さもない、酒臭さもない。まるでお風呂に入ったばかりの良い香り。プロ野球公式戦の約3時間、ラブホテルの休憩時間。大体一緒だ。そう、愛人と会う言い訳、それが「浜スタに行ってくる」になっていた――。