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 遅かれ早かれ、このオフ、大谷は戦いの場をメジャーへ移す決断を下すはずだ。23歳の大谷は、メジャーで新設されたいわゆる“25歳ルール”によって、契約金の上限が設定され、マイナー契約という格安の条件での移籍を余儀なくされる。それでも大谷はそんなことは意に介さない。

「僕が高校時代にアメリカへ行きたいと思ったのは、マイナーでやりながら他の人と違う過程を踏んだとき、自分がどんな選手になるのかなという楽しみが大きかったからでした。すぐにメジャーで通用するなんて思ってなかったですし、(日本の)プロ野球にピッチャーとして入って、1年目にチョロっと投げて、2年目からチャンスが徐々に増えていって、3年目、4年目でローテーションに入って……そういう決まっている成長過程ではなくて、まったくわからない、想像もつかない過程を踏んだとき、僕はどうなるのかなというのを自分で見てみたかったんです。今も、自分がどのくらい行けるかという限界はわからないですし、てっぺんも見えてない。そっちのほうが僕は楽しみかなと思います」

伸びしろしかないと思ってます

 野球がうまくなりたいと日々を過ごしてきた永遠の野球少年にとって、大切なのはカネではなく、うまくなるための刺激だ。メジャーが、自分ではまだ気づいていない能力を引き出してくれるかもしれないという期待が、今の大谷を突き動かしている。

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「環境が人を左右することはたくさんあると思います。ファイターズに来たことで、(投打を)2つやるという環境を提示してもらったのはすごく大きなことだったし、選手としての幅がすごく広がったんじゃないですかね。おかげでここまでけっこうすんなり野球をやってこられたので、今回のことは自分の中で大きな決断じゃないかなと思っています。もちろん不安もありますけど、行くとなったら、やるからにはトップへ行きたいというのは普通だと思います」

©鈴木七絵/文藝春秋

 大谷がメジャーへ行くことになったらどのチームへ行くのか、二刀流は可能なのかと、もはや世の中は侃々諤々(かんかんがくがく)。メジャーで二刀流を目指すならナ・リーグで打席に立つのがいいという普通の発想から、ア・リーグでDHとして野手枠に入り、6人目の先発としてローテーションに入るというアイディアもある。いやいや外野手としてレギュラーで出てもらって、ピッチャーとしてはクローザーをやればいいというウルトラCまで、メジャー各球団が大谷に選んでもらうべく、二刀流の彼をどう活かすのか、その知恵を絞るところまできているのだ。

「外野? 2年目までは普通にやってましたけど……どうですかね。今、守れって言われたら、(西川)遥輝さんの守備範囲はなかなか出せないかなと思いますけどね」

 守備の話をすれば、いきなり昨年のベストナインの名前が出るのだからたいしたものだ。栗山監督は選手としての大谷を「まだ1合目」だと言ってそのポテンシャルを表現していたが、大谷は自分自身の伸びしろをどう感じているのだろう。

「伸びしろですか? 伸びしろしかないと思ってます。自分でもこう……なんて言えばいいのかなぁ、こうだみたいな限界は現時点で見えていないんです。ということはいろいろ試す項目が多いし、勉強することも多いのかなと思います。5年後、年後を見たときに、明日の結果よりも大事なことを考えてやってきたので……野球、何歳になってもやりたいですからね。そこは医学の進歩にも頼ります(笑)」

 大谷は岩手の高校を出て、北海道の“大学”を巣立ち、まもなくアメリカへ渡る。メジャーで当たり前のように結果を出すことを期待されて、何百億円という破格の契約を交わす最近の日本人選手と違って、大谷は野球がうまくなりたいと目を輝かせながら、幸か不幸か“格安”の契約で、より高いレベルに身を投じようとしている。