2021年、大リーグ・エンゼルスの大谷翔平選手は、ピッチャーとして9勝、バッターとして46本のホームランを放ち、イチロー以来20年ぶりとなるMVPに輝いた。そんな彼の貴重な歩みを記録し続けているのが、ベースボールジャーナリストの石田雄太氏だ。
ここでは、同氏の著書『大谷翔平 野球翔年 I 日本編2013‐2018』(文春文庫)から一部を抜粋。2017年、大リーグ移籍を目前に控えた大谷選手は、どのようにしてエンゼルス入団を決めたのか──。当時の彼の心境を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)
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今年もうまくなれた
ファイターズの長年のファンとして知られるコラムニストのえのきどいちろうさんが、おもしろい喩え話をしていた。
「かぐや姫は月へ帰るのだ」
なるほど、言い得て妙だ。かぐや姫がいつの日か月に帰るのを誰もが知っているのと同じように、大谷翔平がいつの日か、メジャーリーグへ行ってしまうことを、今や誰もが知っている。そしてその日が目の前まで近づいていることは、いつしか既成事実として世の中に広がっている。
しかし、大谷はそれがこのオフだということは、公の場では1度も認めていない。そのことについて、大谷はこう言っていた。
「周りが言うだけで僕は何も言ってないので……やっぱり100%、120%行くとならなければ言葉には出せません。99%でも無理ですし、ここ(ファイターズ)に残る可能性もなくはないので、そこは慎重になるかなと思います。周りは他人事だと思っていろいろ言いますけど(笑)、僕やファイターズの人たちにとっては大事なことですし、5年間、応援してくれていたファンの人たちのことを考えると、軽い気持ちでそういうことは言えないと思います」
確かに、大谷の周りからはこのオフのメジャー移籍へ向けて、さまざまな準備が進んでいることは伝わってくる。それが大谷の意思に基づいていることも間違いない。ただし、大谷がごく近い人に明かしているのは『このオフに行きたい』という強い決意だけで、細かいことには例の如く無頓着だ。周りがどんなに騒々しくなろうとも、日々、彼が夢中になっていることは何も変わらず、1つだけなのだ。
野球がうまくなりたい──。
そのまっすぐな想いは、ケガに苦しんだプロ5年目を振り返る大谷の、こんな言葉からも垣間見えた。