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俺はもうこんなところにはいたくない! 家を出る!

 子どもの頃って走るのが速い、スポーツができる、頭がいい、ケンカが強い子なんかがヒエラルキーの上位にいたりしますよね。大阪って特殊なのが、面白おかしいやつがその子たちよりさらに上のポジションを取れたりするわけです。だから、面白いやつになって、居場所を作ろうと思った。今思えば、それは演じるという感覚に近かったのかもしれません。1日で性格を変えることなんてできないけれど、根本から明るくて面白い人間になったように相手に感じさせようとしたわけですから。それって演技と一緒ですよね。

<人気者のヨンちゃん>になって学校に居場所ができた後も、「馴染めない、居心地が悪い。ここじゃないどこかに行きたい」という気持ちは常に根っこにあったように感じます。中学生の頃には「俺はもうこんなところにはいたくない! 家を出る!」と母にボヤいていました。そんな覚悟もないくせに(笑)。

米本さん ©文藝春秋 撮影・宮崎慎之輔

 そういう僕に、母は「せめて大学に行って」と言う。高校生の時、世界の紛争のニュースを見て居心地の悪さを感じていた僕は、「世界を平和にする手伝いができる国連職員か、子どもに平和の大切さを伝えることができる教師になりたい」と思うようになり、外国語と国際関係を学ぶため京都の大学に進学。当時から世界で起きていることに関心はあったし、世界をよくしたいという気持ちも本当にあったと思います。でも本音を言えば、親の言う通りに大学へ進む自分を納得させる「理由」を僕は探していたのかもしれないですね。

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入院患者にいきなり噛みつかれたことも

 2003年に大学を卒業しましたが、真面目な学生生活を送ったとは言えません(笑)。卒業後は、友達に紹介された病院の精神科の受付と事務当直の仕事をしていました。山奥の古い病院で、何十年も入院している患者さんがいるようなところ。夫から暴力を受けて泣きながら逃げてきた、裸足にパジャマ姿の女性を保護したり、夜中に電話で「昔入院していた患者さんの今の居場所を言えば100万円やる」と言われたり……。もちろん、教えるわけないんですが、100万円……? ってなりますよね(笑)。

若かりし頃の米本さん(事務所提供)

 入院患者さんにいきなり噛みつかれたこともあります。その患者さんは去り際に「私、誰だって噛むわけじゃないからね」と言っていたのですが、喜ぶべきなのかなんなのか(笑)。他所じゃできない経験をたくさんしました。