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「プーチンは城に閉じ込められているようなものなんですよ」ロシアの未来と東アジア戦略《ついにウクライナ侵攻》

小泉悠氏インタビュー #2

2022/02/26
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ロシアの未来はプーチンの辞め方次第

2018年の東方経済フォーラムで柔道観戦をした日露両首脳 ©AFLO

〈ロシアの未来を占うポイントについて、小泉氏は20年続いてきたプーチン体制の終わらせ方に注目しているという。小泉氏はいう――「プーチンは、城に閉じ込められているようなものなんですよ」〉

――プーチン体制はいつまで続くのでしょうか。プーチン後のロシアはどうなるんでしょう。

 現状、ミニプーチンならいっぱい居るんですよ。例えば、トゥーラ州の知事をやっているデューミンという人物は元KGB系の切れ者で、にらみが利く。プーチンが辞めた後、プーチン的な統治を続けることはできると思うんです。問題は、そのプーチン的統治を続けても、国としてジリ貧だということです。

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 プーチンは、自身について「私は混乱して崩壊の瀬戸際に立たされたロシアという国を任された、非常時の指揮官である」という認識を持っていると思う。言うなれば、戒厳令下の戒厳司令官です。

 90年代のロシアは本当にメチャクチャだった。それを何とか立て直す、そのためには多少の強権も非常手段もやむを得ないという認識でプーチンが登場して、一定の秩序をロシアに取り戻したわけです。

「城」から出られないプーチンの未来

――その危機を脱したのでは?

 だけど、まだ非常事態体制をうまく解除できてないわけです。非常事態体制そのものから、利益を得ている人がいるから。例えば産業が国家の統制下に置かれて、その利益というのはプーチンのお友達に配分されているわけです。今さらこれをやめて、じゃあもっと自由で公正な市場にしますと言っても、これはプーチンサークルがまず承知しない。

 いわば、カフカ的な状況ですね。カフカの『城』はいつまでも城の中に入ることができない男の話ですが、プーチンの場合は自分の築いた「城」から出られない。

 誰もが、どうすればいいかは分かっているんです。対外的な緊張を緩和させて、国内の既得権益層を退場させればいい。でも、それはプーチン的なシステムの延長ではできない。

 ミニプーチンで数年はしのげるかもしれないけれど、数年後にちゃんと新しいリーダーにスイッチできないと国が保たない。ベストのシナリオは、2024年にちゃんと任期通りにプーチンが辞めることですが、ここで辞めるとプーチンは逮捕されたり、身に危険が及ぶ可能性が高い。

――城から生きてでることはできないと?

 城から出た瞬間に、権力がなくなった瞬間に破滅する。ロシアの中にも、プーチンが権力を失った瞬間にのし上がってやろうと思っている連中はいっぱい居る。そうすると、プーチンとしては怖くて辞められない。

 だから、身の安全を維持できるぐらいの権力を保ちながら半引退するみたいなことができればいいけど、それが難しい場合、本当に「終身独裁」を続けることになるかもしれない。

――ソフトランディングできるのでしょうか?

 頭の柔らかい若い世代の指導者が現れれば、ベストだろうと思います。最近では国家安全保障会議議長に国防大臣などの任命権を持たせて、プーチンがそのポジションに横滑りで就任するという説が囁かれています。

 中国共産党も、国家主席を辞めても、その後中央軍事委員会の主席をやって、引退することが多い。ロシアもそれを参考にしているのかもしれない。もっとも、肝心の習近平が国家主席の任期を撤廃してしまいましたが(笑)。

 たぶんプーチン政権は、日本でいえば「55年体制」みたいなものなんです。あの構造を破るのは本当に大変だったと思う。危機からの復興というかたちで、緊急的に生まれて、利権が固まり、成長が止まった後もずっと構造だけが残ってしまっていたのです。